a Day in Our Life
その日は朝から体調が悪かった。 腹に鈍痛を抱えた上、その影響か眠気がひどいし、体熱で妙にふわふわする身体を抱えて、それでもついつい癖のようにいつも通りに振舞ってしまった。体調が悪い、と知らせてしまえれば楽なのに、病人ぶるのもなんとなく憚られて、それはこのグループにおいて自分が年長者に当たるからなのか、それとも単に面倒だったからなのか、そうすることで結局、余計に疲れるのは自分なのだと内心ため息をついてみたりする。 「村上くん。具合悪いん?」 そう、声をかけてきたのは内で、少なからず村上は驚いた。横山や渋谷ならまだしも、まさか内に感づかれるとは思ってもみなかったのだ。グループ内最年少の、自分から言わせればまだまだ甘ちゃんなところも、いい意味で自分本位なところも、むしろそれが内のよさなのだと思っていた。 「…ちょっとな、」 なんでもない風を装ってはみるものの、すっかり見破られているらしい。オナカ?とゆっくり目線を下げられれば意地になって隠すのも面倒になって、片手で下腹を擦りながら僅かに頷いてみせれば、大丈夫?と真顔になった内が随分と大人に見える。 「何で分かったん?」 黙って耐えるのと、誰かに話して聞かせるのと、それだけの差が何か意味があるのかと思う。けれど内に言ったことで、少しだけ楽になった気がする自分がゲンキンだと思う。 「分からへん。なんとなく」 「普通にしてたつもりなんやけどなぁ」 それを気に留めた訳ではなかったけれど、なぜ内だったのだろう、と村上は不思議に思った。 「村上くんは普通やったけどね。俺、そういうの結構分かるねん」 そう内が言うので、今まではわざわざ言わなかっただけかな、と村上は思い直した。同じABの特性として、他人との距離感が独特に見える内は、無関心なだけだと思っていたけれど、周りはきちんと見えているのかも知れないと思う。 「薬とか、貰う?」 「いや。ええよ、そこまでひどないから。我慢出来る」 気が付いたからには、と内が気を回してくれるのを、やんわりと断る村上に、我慢、という言葉が内には引っ掛かったらしい。ほんの僅かに眉を顰めて、憐れむような表情をした。 「何でやろ、村上くんは」 「ぅん?」 「周りのことはよく見えて、しんどい子は助けたるのに。自分がしんどい時は、誰にも気付かれへんねんな」 言ってゆっくり目線を動かした。無意識だったかも知れない、思い思いにリラックスしたメンバー達に視線が注がれる。それが悪いことだとは思わないけれど。気付いて貰うくせに、彼らは気付かない。 「可哀想やと思う?」 言わんとすることは伝わったらしい。或いは村上本人も、もちろんそのことに気付いていたのだろうか。 「そうは思わへんけど」 「そう。やって、わざとそうしてるんやから」 「わざと?」 痛いはずの村上が、笑ったような気がした。微笑む、というのが正しいのだろうか。そういう顔で、内を見上げる。受け取ったその視線を、どうしたらいいのか分からなくて、黙って見つめ返した。 「うん。気付かれへんように、わざと普通にしとるんは俺やから。それでええねんよ」 でも内は気づいてもぅてんなぁ、と村上が呟くので。 「気付いたらアカンかったん?」 言えば今度こそ、目に見えて笑った村上が、 「ううん。嬉しかったよ。ありがとうな、心配してくれて」
その言葉に内も思わず、にっこりと笑い返した。
***** ex.生@痛ですみません。
|