a Day in Our Life


2004年11月04日(木) スノースマイル。(横雛)


 「やから、冬は嫌いや」

 合わせた両手に息を吹きかけながら、横山がボヤく。日中はまだ暖かい日が続くとはいえ、朝夜は随分と冷え込んできた。今、ラジオの仕事を終えた二人が局を出る頃には、漆黒に沈んだ夜が、しんしんと空気を冷やす。
 何度息を吹きかけても温もらない両手に、諦めたように横山が、その手のひらを今度はジーンズに擦りつけた。それで気休めになる訳でもないのだろうけれど、そうでもしなければいられないらしい。今からそんなことでどうするのだろう、と村上は、ちらりと隣を歩く横顔を盗み見る。それでいて手袋やマフラーや、防寒着と呼ばれるものをおよそ横山は身につけることがないのだ。思えば真冬でも随分と横山は薄着で、それで寒いと文句を言う。
 「そうかな?俺は好きやで」
 「何が」
 いっそ楽しげに呟いた村上の言葉に、不機嫌そうな横山の声が返る。不機嫌な横山が不機嫌な声そのままで当たる相手は限られていると思うから、本当はそれだって、呆れたり困ったりすることはあっても、嫌だと思うことは少ない。
 「冬。俺は好きよ」
 「…物好きやな」
 「そぅ?やって、」
 言って村上は、おもむろに自分の右手を持ち上げて、隣の横山の左手を掴んだ。するりと滑るように握り込む。咄嗟のことに驚いた横山を見て、にっこりと微笑んだ。
 「冷たいヨコの手を繋ぐ理由になるやろ?」
 村上のその微笑みと同じくらい、その手は暖かくて。自らの息よりもジーンズの生地よりも、比べようがなく横山の手を温める。
 「……アホやろ、おまえ」
 口を尖らせた横山は、それでも決して振り解くことはない。それでいてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ冬が嫌いではなくなったかも知れないと横山が思ったことに、村上が気付いたかどうかは分からなかった。



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