a Day in Our Life


2004年10月15日(金) 金木犀。(横雛)


 「あ、」

 ラジオ局を一歩出た途端、村上が短く呟いて、横山は顔を上げた。
 「何?」
 「キンモクセイや」
 きょろきょろと辺りを見回す村上が、目当てのものを見つけて笑みを浮かべる。
 「こんなところにあってんなぁ。花咲かんかったら気付かへんわ」
 というか、3年も通ってて今年初めて気付くんもどうかと思うけど。
 相槌すら打たずに黙ったままの横山を気にも留めず、一人喋る村上の目線を追えば、その先にオレンジの小さい花々。ふわりと風に乗って、強烈に薫る独特の匂いが鼻をつく。ふぅん、と聞こえるか聞こえないかの生返事を返して、ポケットから取り出した煙草を一本、口に咥えたところでやんわりと村上に止められた。
 「何」
 憮然と問えば、村上の微笑みが返って来る。
 「今だけ一緒に禁煙しようや」
 「何で俺がおまえの禁煙に付き合わなアカンねん」
 「まぁ、そう言うけどな」
 折角キンモクセイが薫ってるんやから。たまにはゆっくり味わってみてもええやん?
 言って大袈裟に深呼吸をした村上が、ひどく楽しげだったので。横山は唇に咥えた煙草を黙って箱に戻す。あまつさえ、「トイレに行きたなるわ」などという無粋な返しは声に出さず、口を噤んだ自分を随分と甘いと思った。



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健康第一。

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