花屋を通った横山は、あるものを見て、立ち止まった。 鮮やかな色の、小さな、花というには小さな、蕾の、花。 今から咲き誇りそうな、それでいて、充分キレイな、鮮やかなピンクの花。 薔薇のように決して主役には慣れないけれど。小さいけれど。キレイで、自分を引きつける姿。 まるで、『彼』のようだと思った。
『ボロニア』
珍しく、横山からのお誘いに。断る理由もなく。誘われるままに、横山の車に乗りこんだ。 ご飯食べたり、映画みたり。いつもの、二人のデートのようでいて。 けれど。移動するたびに、香る。花のにおい。 助手席と運転席の間から香る、甘く、癒されるような香り。
「珍しいなぁ」 「なにが」 「ヨコの車に、花が置いてあるなんて」 いつも、車の匂い消しか、飲みかけのジュースしか置いていない、ドリンクホルダーには、鮮やかなピンクの花が置いてあった。 薔薇のように自己主張するでもなく。コスモスのように存在感をアピールするわけでもなく。 ただ、小さな花を開いて、咲き誇っている。その姿。 名前を聞いても、花に興味がない自分には、わからないけれど。 ピンクで、キレイで。かわいらしいその花が。 今、目の前に。自分の隣で咲いてることを、村上に教えたかった。
おまえに似た、小さな、キレイな花が。 とても、愛しく感じたから。
だから、ガラにもなく、買って、飾ってしまったのだと。 言おうとして・・・ヤメタ。
「キレイやなぁ」 呟いた村上のほうがキレイだと、思ったけれど。 本人に言えるわけがなく。 思った自分が恥ずかしくて。村上の顔を見ないようにして、笑った。
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