2001年02月04日(日) |
ハッカー飯島×チェリー三村(飯島サイド) |
「siosai」
気づいたときには、俺はどこかおかしくなっていた。
どうしようもなく、心が飢えている。
いつも隣にいた。 この腕の中に抱きしめていた。 恋焦がれていた存在。 それが、今いない。
いや、居ないなんていうのはおかしい。 そんなヤツはいるはずないのだから。 生まれた時から一人だったのだから。
けれど、確かに存在する傷跡。 心の空洞。
物心ついたときには壊れていた。 パソコンに狂ったように執着する俺を、周りは奇異の目で見ていた。 親にも見放された。
現実と空想の入り混じった箱の中。 この世界で、生きていた。 いや、生きていなければいけないような気がした。 それは何故かはわからないけれど。 それでも、その世界から抜け出そうとは思わなかった。
唯一、同じ世界の人だと思った彼女は、『光り』に導かれて行ってしまった。 別に、悲しみなどはなかった。 彼女は、この空洞を埋める存在ではなかったから。 けれど、自分にとっての『光り』を見つけた彼女に嫉妬した。 嫉妬して、彼女の世界を壊そうと思った。
けれど、出来なかった。 彼女の『光り』によって、打ち砕かれた。 その、どこかキレイで気高い『光り』には覚えがあった。 その『光り』も俺の近くにいたような気がした。
けれど、懐かしい気はしても俺の求めるものじゃない。 似てるけれど、違う。
俺は、いつまで待ちつづければいいんだろうか。 いつまで、探し続ければいいんだろうか。 この箱の中で、存在するのかもわからないものを求めれなければならないのか。
心の中が暗く、沈んでいくような感覚に陥った。 信じていたものが崩れそうな感覚。
心の空洞。
けれど、その時一筋の『光』が見えた。
レナに仕掛けたワナを打ち破られた日から数日後。 俺が仕掛けたウイルスを破ったうちの一人が、コンタクトをとってきた。
「この前のウイルス作ったのオマエだろ?あれ壊すの結構手間取った。けど、おもしろかった♪」
ウイルスを打ち破り、その発信源をみつけるくらいだ、かなりの腕の持ち主なんだろう。 そして、躊躇することなくコンタクトを取ってきたくらいだ、自信があるんだろう。 俺と同じ世界のヤツなのだろうけど、あのウイルスを「おもしろい」と言いきるコイツに興味が沸いた。 何もない退屈な日々が続いていたから、少しの刺激がほしかったというのもあって。 会ってみたいと思った。
何度かコンタクトを取り、あっちから「会ってみたい」と告げられて承諾した。 どんなヤツかわからない。 HNは男の名だが、女の可能性も充分考えられる。 けれど、男か女かは関係ない。 ここまで興味を惹かれたのは初めてだ。 コイツは、自分の中の何かを動かす、そんな気がした。 おもしれえ。 生まれて初めて、何かに期待している自分に気づく。
会ってみると、想像していたのと大分違っていたのに驚いた。 あの世界の住人とは思えないくらい、明るく、軽い感じのやつだった。 よくしゃべりよく動く口。 少し高めの声。 うるさいはずのしゃべりも、ずっと聞いていたいような気がする。 俺より少し下にある目線。 コイツは見上げているはずなのにそんな気はしないから不思議だ。 隣にある肩。 まるで、パズルのピースのように、隣にいるのがしっくりくる。 なんでだ? なんで、そこに居るとほっとするんだろう。 なんで、生きて、そこにいるのが嬉しいと感じるんだろう。
「うわ!」 しゃべりながら階段を降りていたら、アイツは踏み外して落ちそうになった。 それを慌てて支える。
ギュッと、腕の中に抱きしめた感触が心地いいのはなんでだ? ずっと、こうしたかったと思うのはなんでだ?
何故か、手放すことが出来ずにずっと抱きしめていた。 アイツも、抱きしめられたまま動かなかった。
「なあ、なんかオマエの腕の中に覚えがあるんだけど・・・なんでだろうな?」
アイツが、ポツリと呟いた。
やっと、出会えたのかもしれない。 俺の唯一の『光り』
『今度こそ、守り抜いてみせる』
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