ねこや  ネコヤシキ日

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2002年03月07日(木) ゆだねる(2)

20代の半ば、ひとりでお遍路をしていたときのこと。

そのときは、歩き遍路ではなくて、交通機関の使えるところは使い、歩くしかない山道だけを歩いていた。

徳島から高知への途上だったか、あまり険しくはない山の上の札所に参り、次の札所に向かって降りていた。おだやかな日。人通りはなく独りで、木の葉を踏んで歩いていた、と記憶する。

うしろから、さくさくと慣れた足運びで、柴木の束を抱えたおじさん(おじいさん)が追いついてきた。地元の人らしい。追い越しぎわに、私に声をかけてゆかれた。ひとりごちてゆかれた、のかもしれない。

「お遍路をしとりなさるか。いいことだ。お大師さんのおかげで、わるいようにならん。お大師さんのおかげで、死ぬるようなときでも、いいように生きていられる」。

 ……へえ。ずーーっと命拾いできるのかなあ。ホントかなあ。

「死ぬときには、いいように死ねる」。

 ……なによう。いいもわるいも、どうせ死ぬんじゃない。同じじゃないの。

おじさんは、そのままどんどん先に降りてゆかれた。


このごろになって、みょうに繰り返し思い出される。


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