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■こいびと
ああ、そうだ。終着駅。 忘れていたのはたぶん、その程度のこと。 果実の腐敗臭のような甘いにおい。 もう、懐古すら抱かない。
暮れの迫る世情は、 此処だけやけにゆっくりと、いっそ停滞するように。 緩慢に、静謐に。穏やかで、 時に、とても激しく脳髄に響く鈍器でつけた傷跡。
惜しむのは痛みを失くすことだった。 それはまるで思い出を捨てるように、 見せてはならない内奥のうちにある 蜜の味をしたためた軌跡を忘却してしまうように、 ぬるく、厳しく、零れ落ちていく。
ああ、そうだ。着地点。 寂しさの根源は、たぶん、そんな瑣細なこと。
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