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彼の家に着いてドアをノックした。 インターホンから、どうぞと彼の声がした。 そのまま部屋に入る。 久々の彼の部屋。ほぼ2か月振りの。 彼の部屋のニオイがした。 彼が床に敷かれた布団に横になってテレビを観てる。サッカー。 差し入れで買ってきたお茶を渡す。でも一向にこっちを 向くわけでなくずっとテレビを観てた。 「ていうかさ、話があって来たんだけど」 「うん、何?」 「テレビ観てるじゃん」 「いいよ、話して。俺聞いてるから」 「テレビ消してよ」 「消すかどうか、話聞いてから決める」 半ば呆れつつひとまず話す。 でもそんなにスラスラ話せる内容ではなく、どこから話せば いいか分からなくてそれを彼に言うと 「普通内容なんて家で考えてくるもんなんじゃないの?」 と、イライラしながら言われた。 今置かれてる状況のこと、場合によっては仕事を辞めないと いけないこと。ΓテツリΓテツリと彼に話した。 自分でも途中まで気付かなかったけど、震えてた。 震える、なんて私でもあるんだな、などとボンヤリ思いながら。 彼が口を開いた。 「それで?」 「え?」 「それを俺に言って何かあるの?」 ショックだった。 確かに彼に言って状況が変わるわけではないけど 一人で溜め込んでいられなくなってたし もし、万が一仕事を辞めることになっても 彼には本当の事情を知っていて欲しかっただけなのに。 「俺に話すだけならいくらでも聞くけど何か意見を 求められても何も言えないよ」 確かにそうかもしれない。 ただ私は彼の意見を聞きたかったわけじゃなくて 話を聞いてくれて何かを言って欲しかったわけじゃなくて。 でも彼の言葉はあまりにも冷たかった。 私は彼にただわかってほしかっただけだったのに。 そして、それからも彼はただテレビを観てるか 寝てるかのどっちかで私はその横でWWEのゲームを 勝手にやっていた。 そのあいだ一つ心に決めたことがあった。 ゲームが終わって、ふと彼を見る。そして彼の部屋を 見回した。彼の部屋は何も変わってなかった。私が あげた目覚まし時計も、CDも。紙袋も何もかも。 トイレに行ってからバスルームで手を洗うと私が昔 置き忘れていった歯ブラシもそのままだった。 トイレのドアノブは、4月に私が風呂で貧血を起こした時に おでこを思いっきり強打した。その時の 右手の甲のキズはまだうっすらと残ってる。 思い出だらけだ。 何も変わってない。 変わったのは私とのーちんの間だけ。 トイレから戻ってきて寒いので布団に足を入れる。 ついでに全部入って彼を抱き締めた。 今までの事を思い出したら涙が止まらなかった。 彼に気付かれないように堪えてた。 すごい好きだった。 でももう離れよう。 彼のニオイも体温も全部今日で最後。 この部屋でこうしているのは今日で最後。 そう決めてしばらくの間ずっと抱き締めていた。 つづく |
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