Comes Tomorrow
ナウシカ



 働かへん子

うちの病院に某芸能人の親族Aさんが来た。
確信はなかったけど、名前からしてそうかな?と。
でも、ナースである私からわざわざ聞くのもやらしいし、最初は聞かなかった。

実は、私はそのAさんと共通の知人Bさんがいる。
Aさんに会う前から、噂はそのBさんからいろいろ聞いていた。
そこで、Bさんのことご存知ですか?と聞いてみた。
すると知っていると言う。
遠回しな確認の仕方だったけど、それで確信が得られた。

でも私は、その確信を得るためだけに尋ねたのではなかった。
Bさんはずっと体調が悪く、病院に入院していた。
お見舞いに一度だけ行ったことがある。
ずっと気にはなっていて、安否が心配だった。

Aさんが言うには、Bさんは昨年亡くなったらしい。
今度は亡くなったというBさんが、本当に私の知るBさんなのかどうか、再度確認の意味も込めて尋ねてみた。

Aさん 『あの働かへん子やろ?』
私 『…えっ?』

私は最初その意味がわからなかった。
高齢者のBさんのことを、〜子という表現もあれだったけど、働かへん子ってなに?って。

あんなに働き者のBさんのことを働かへん子?
私は何か、別の人のことを言ってるのかもとも考えてみたけど、その他の話からもBさんのことには違いない。
じゃぁ〜なぜ働かない子なんだ?

そこでハッとした。
Bさんは1人暮らしで生活保護を受けていた。
奥さんも子どももいたけど、離婚して1人だった。

私がBさんのお宅を訪問すると、いつも温かく迎えてくれて、本当に優しい人だった。
Bさんは私に、これまでの人生を話してくれることもあった。

とても貧しく、学校もまともに通えなかったこと。
父親にいつも殴られて、骨折までしたこと。
母親も幼い頃に亡くし、若い頃から自立して働いていたこと。
働きづめで身体を壊して持病がたくさんあり、身体のあちこちが痛いと言っていた。

見た目、障害があるようには見えなかったけど、Bさんは手が不自由だった。
それでも地域のため、友人のため、身体を引きずってでも人のために働いていた。
ほとんどがボランティアで報酬もなく、人に感謝もされないような日陰の仕事を淡々とこなしていた。

無理して無理して、身体がボロボロになって…
私は無理しないで、誰かに頼んだら?とか、誰かに助けてもらったら?とか、ほんとほっといたら?とか、Bさんの身体のことが心配でいつも言っていた。
それでも、人のために働くことが大好きで、それを止められない性分のBさんだった。

だから、働かへん子=Bさんというイメージは私にはない。
だから最初、Aさんの言ってる意味を理解できなかった。

生活保護を受けているから?
報酬のない仕事をしてるから?
離婚して1人で暮らしているから?

Aさんは、高額所得者である某芸能人の親族。
大きな一軒家に家族と暮らしている。
悠々自適の生活。

『あの働かへん子やろ?』
なんかモヤモヤする。
なんだろう?この不快な気持ちは!


2009年07月07日(火)
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