蜜白玉のひとりごと
もくじかこみらい


2015年04月25日(土) お粥は甘酒の素

8泊9日の入院を経て帰宅した。家に帰ったら緊張が解けたのかものすごく眠くなり、その日は昼寝3時間に加えて、夜も21時前には布団に入った。どうしたって自分のベッドがいちばんだ。次の日も、その次の日も、たくさん眠った。やっと昨日あたりから、昼間は起きていられるようになった。体力的には徒歩5分くらいのパン屋さんまで誰かについてきてもらって歩くのがやっと。まだ最寄り駅まで行けない。食事は近所に住む妹任せ、掃除洗濯は夫任せ。皆の世話になっている。

さて、入院生活は思いのほか快適だった。昼夜交代で毎回違う看護師さんが担当してくれたが、やさしくて頼もしくて優秀だった。術後の強い痛みと麻酔による吐き気とめまいに悩まされたのは直後の2日間だけで、その後はある程度痛みがコントロールされ、周囲に意識が向けられるようになった。そこまでくればこっちのもの、この病院生活を味わって記録しようと思える余裕が出た。

とはいえ、行動はとても制限されている。基本はカーテンに囲まれたベッドの上、ベッドから20歩くらいの廊下のトイレ、さらに歩いて息を切らしてようやくたどり着くシャワー室、の3か所くらいしか行けるところはない。ラウンジもあるにはあるが、うるさくて居づらい。院内には売店もタリーズもあるけれど、私には遠い世界。痛みのせいで全ての動作がとてもゆっくりだから、時間はすぐに過ぎていく。3度の食事の間にできることなんてほんの少しで、朝食の前に日記を書いて、昼食の前にシャワーに行って、夕食の前に夫が洗濯物を取りに来てくれてちょっとした買い物をお願いしたら、それでもう一日が終わる。

日中、カーテンの向こう側から、回診の先生や面会者との会話が聞こえてくる。同室の患者さんについて、たった数日間で恐ろしくたくさんの情報を得た。治療対象の病気、その他の持病、家族構成、職業、面会者のスケジュール、食べ物の好み、洋服の好み、家の間取り、果てはキャッシュカードの暗証番号まで、筒抜けなのだ。顔が見えないからって不用心すぎる。ざわざわとうるさいときは耳にイヤホンをギュッと差し込む。こちらも聞きたくて聞いているわけではないのだ。

単調な毎日の中で楽しみといえばやはり食事だ。病院お決まりの味気ない食器のせいで見た目は残念な感じだけれど、味はおいしかった。食事は2日間絶食の後、重湯→3分粥→5分粥→全粥→常食とレベルアップしていく。ただし、2回(たとえば朝食と昼食)連続して完食しないと次の段階には進めない。その仕組みを看護師さんから聞いてはいたものの、お腹がすいてもいざ食べ始めるとたいして食べられないのだ。食べるには体力がいる。少しずつよく噛んで飲みこんで、少し休憩して、またスプーンを持って口に運ぶ。回復食の頃、ベッドの上に何とか起き上がってひとりカーテンに向かってする食事は、ほとんど修行のようだった。ただ、私にとってのお粥がいわゆる病人食ではなくて、何しろ「甘酒の素」にしか見えないから、3分粥が供されたときには、このくらいのゆるさが甘酒にいいかもな、などと考えていて、あまりにも状況とかけ離れた楽観的な発想に自分で和んだりした。

18時半に夕食を終えたら、他にすることはない。テレビと冷蔵庫は一日いくらの別料金だから、はじめから断っていてテレビなし生活だ。もう歯磨きをしてさっさと寝る。本来の消灯時間は22時だけれど、早い人は20時頃には寝に入っている。部屋も暗いし手元の明かりで本を読むにも集中力が続かないから、私も21時過ぎにはあきらめて寝てしまっていた。その代わり朝は6時起床を待たずに、5時頃から起きだして活動を始めるからこちらも嫌でも起こされた。

とにかく大部屋はいろいろあるのである。一度には書ききれないのでまた次回。それから、夫の病院通いが皆勤賞だったことは記しておきたい。晴れの日も嵐の日もありがとう。


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