Deckard's Movie Diary
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2008年12月08日(月)  SHINE A LIGHT

『SHINE A LIGHT』
ネタバレです。

「注文通りですが・・・」
「オレのじゃないだろ、マーティンのだろ!」

セットデザインを観た時のミックの言葉です。そのヤリトリだけで、このプロジェクトが順調でないのが分かります。♪黒くぬれ!とショパンのノクターンが交互に流されるシーンはこの映画の中で一番作為的なシーンですが、スコセッシのイライラは「ああ、世界の一流監督でもクライアント(ストーンズ)に振り回されるんだなぁ・・・」スケールは大違いですが、オイラと一緒じゃん!と、妙に納得したりして微笑ましかったです。

このプロジェクトは、元々はリオで行なわれる予定だった最大規模のライヴを映像に収めようとしていたらしいのですが、監督に指名されたスコセッシがNYのビーコンシアターという小規模な舞台に変えたらしく、発案者のミックとしてはイマイチ気に入ってなかったようです。まぁ、そんな舞台裏の話が少しだけあって・・・この辺りのサジ加減が、途中で挿入される過去映像(♪マザー・イン・ザ・シャドウのコマ落とし映像が懐かしかったあぁ・・・)も含めて上手いんですよ!♪Under My Thumb とか♪Wild Horse とか、ちょっとだけよ!と♪Gimme Shelter とか選曲も憎らしいですねぇ・・・で、肝心のライヴに突入するんですが、いやぁ、とにかく素晴らしい!素晴らしいとしか表現しようがありません。まさに、ガメラの火球を胸で受け止めたギャオスの気分でした(参照:『ガメラ 大怪獣空中決戦』)。こりゃ、ライヴ・ドキュメンタリーの最高傑作でしょ!っつーか、スコセッシはドキュメンタリーを作る気は毛頭無いですね。これは間違いなく“映画”ですよ。この作品がライヴを超えているのかどうか分かりませんが、確実に言える事は“ライヴを映画のように撮った”作品なのは間違いないです。

実を言うと最初は全く観る気はありませんでした。「今更、ストーンズのライヴドキュメントなんてなぁ・・・」とタカを括っていました。ところが、音楽好きでもなんでもない友人が試写会で観て「凄い!の一言!誰かに伝えたくて・・・是非!」とメールを送って来たんですよ。即座に「お前なんかライヴを観たことないだろ!ライヴに勝るモノなんて無いんだよ!でも、そこまで言うなら観てみるよ」と返答したのですが・・・全くもって、オイラの惨敗でした!宮崎君、ごめんm(_ _)m 斜に構えて観始めたのですが、演奏が始まってからはスクリーンにクギヅケでした!何が凄いって、全編こだわりのフィルム撮影!画面に映る撮影班のカメラには1000fマガジンが装着されていて驚きました。

<ちょっとだけ説明>
現在はライヴのような長時間一発勝負の取材は60分とかに渡ってテープチェンジ無しで録画出来るビデオ取材が当たり前です。何故なら、35mmフィルムだとカメラに装着できるのは1000fが最長なので10分程度でフィルムチェンジが巡って来ます。フィルムチェンジに要する時間は短くても3〜5分程度かかってしまいます。つまりフィルムで撮影するってことはメチャクチャ面倒な上に、フィルムチェンジしている間はそのカメラは何も撮れてないってことなんです。要は用意したカメラが全て同じタイミングでフィルムチェンジを始めたら、どのカメラにも撮れていないシーンが出てくるってことなんです。スコセッシもその部分が一番心配だったみたいですね。

フィルムの良いところは、まずは映像がメチャクチャ美しいです!フィルムはフォーカスが合っている被写体の前後に映っているモノのボケる度合いがビデオより強いので、距離感が出るんですね。あのボケ方(“ボケアシ”と呼びます)はビデオでは出ません!このボケアシは空間を映し出します。空間を映し出しすということは、メンバー同士や観客との間にある距離感を意識させられ、スクリーンを観ている者は否応なく立体的にその場所を感じることが出来ます。言い方を変えると空気(合間に漂う埃やらなんやら)が映っている感じですから、とにかく濃密な映像になります。その濃密な映像がミックの悪魔と取引したような声やストーンズのサバイバルナイフで削りだしたようなサウンドとがっぷり四つに組み合っているから、三位一体となった塊になっているんですね。また、通常はライヴドキュってけっこう飽きるんですが、15台以上?のカメラで撮ったフィルム映像をまるでTVのスイッチングで見せているようなカット繋ぎの連続で、ここぞ!とばかりにストーンズのメンバーやサポートミュージシャンを含めた一番美味しい部分ばかりを、溢れるような素材の中から抜粋し繋いでいます。っつーか、あのビジコン(カメラが撮っている映像が分かる装置)映像がズラっと並んだ卓を前にして「このアングルがいいねぇ!」って、それをフィルムでヤルって、贅沢過ぎるやろ!もちろん!そのカット繋ぎは通常では有り得ない“後からスイッチング(つまり普通の編集ってことね)”ですから、そりゃ的確で間違いないです!それぞれのメンバーのアイコンタクトやミックの仕切りの数々までフィルムに収められており、全く飽きさせません!信じられないくらい飽きません!ストーンズの一挙手一投足がオイラを魅了して止みません!どこをどう切り取っても、ワッツの溜息までも画になるロックンロール・ショーなんですよ。ストーンズのパフォーマンスを表現するためにこれ以上は考えられない細かなカット繋ぎの連続で、フィルム撮影に拘ったスコセッシの面目躍如ってとこでしょうか。特筆すべきは現在のストーンズに対してのインタビュー映像が皆無ってことです。挿入されているのは過去での取材シーンだけなんですね(因みにフジTVのインタビュアーは城ヶ崎裕子とのこと)。だいたい、インタビューなんてほとんどの場合、面白くも何ともありません。後から頭で考えた(思い出した)都合の良い言葉なんぞにどれほどの魅力があるんでしょうか?個人的には甚だ疑問です。少なくとも、興味深い話しがあったとしても、それに答えているアーティストなりミュージシャンの映像なんて要りません!だったら、リアルな映像を見せろよ!って、ことなんですよ。何故なら、他では見られないようなリアルな表情を引き出すのに成功しているインタビューなんてほとんどありませんからね。

「18秒で燃えます」
「燃える?火が出るってことか?」
「そうです。ミックが燃えます・・・」
「ミックが燃えるのか?それはマズいだろ!」

ライヴが始まる前のスコセッシとライトマンのヤリトリですが、何を言ってるのかと思ったら・・・このライティングは凄いですわ!そりゃ、ミックが18秒で燃えちまうワケですよ!通常、ライヴのライティングってのは、観客からステージが良く見えるように手前から当てるのがセオリーですが、もちろん!今回も基本はそうなんですが、通常と違うのは手前からのライティングが“押さえ”になってるところなんですよ。“押さえ”と言うのはキチンと見える程度にライティングするってコトで、メインのライト(“キイライト”と呼びます)は別のところを照らしているワケです。人を美しく撮る時の基本ライティングは逆光+押さえなんですが、このステージはその基本を踏まえていて、手前から照らしているライトよりステージの後方から照らしているライトの方が光量が多いんです。最近のライヴではそういうライティングも観られるようになったのですが、全編に渡ってキイライトが後方ってのは初めてでしょう!っつーか、ぶっちゃけ、これって映画のライティングですよ!良く見ると分かるんですが、ステージ後方から撮ったほとんどのカットがオーバー気味(光が強すぎる)です。で、最初に書いた“ボケアシ”を作るには望遠レンズの使用が丸必です。望遠レンズは写る範囲が狭いですから、当然レンズに入ってくる光量も少ないですから、必要以上に光を当てなければなりません!そりゃ、ミックが「ケツが熱い!」と言うのも頷けます。

個人的にはスコセッシが心配していたフィルムチェンジが一斉に始まった♪She Was Hot で思い切りスイッチが入ってしまいました!それまで(♪Jumpin’ Jack Flash ♪Shatteredの2曲)はパワフルなストーンズをガッチリ受け止めているスコセッシの演出に胸を熱くしていたのですが、それ以降はギンギンになってしまいました!つまり、オイラも現役復帰(何が?)していた!ってワケです。

「照れるから人に歌わせた・・・」と言っていた♪as tears go by は、あのマリアンヌ・フェイスフルのデビュー作。『あの胸にもう一度』の可憐な姿と『やわらかい手』での太ったオバサンが同一人物なんですよねぇ・・・遠い目(苦笑)。♪You Got The Silver ではキースが「オレってクールじゃね?」って、まだまだコマそうとしているとこがいいですねぇ!そのキースが「オレもロニーも下手だけど、二人揃えば最高だ!」って、そうだよなぁ!『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』でブライアン・ジョーンズの後釜として入ったミック・テイラーの流暢なギターソロに違和感を持ったオイラはやっぱり正しかったんだ。テイラーはストーンズカラーじゃなかったもんなぁ・・・。でもね、オイラはキースのギターテクはともかく、フィーリングとかタイミングはロックギタリストの中でも最高峰だと思っています。あのフィーリングはストーンズの売りになっているのは間違い無いですよ。そのままキースのソロで♪Connection 。“Between The Buttons”に入っていた小品ですが、あの頃のスウィンギン・ロンドンの雰囲気が思い出されて楽しかったです。で、この曲の最中に観客がカメラをストーンズに向けるのですが、その時にカシャ!というSEをスコセッシはわざわざ入れてるんですね。このライヴドキュを何とか演出してやろー!って、意気込みが感じられて映画ファンとして嬉しいです。音と言えば、このフィルムのサウンドミキシングなんですが、完全に映画用で音楽的なバランスは完璧に無視しています。つまり、ギターのアップ映像になるとそのギター音が異常に強調され、コーラスのアップになると彼等の歌声が前に出てくるんです。ライヴドキュではある程度はそういうことはされているんですが、今回は尋常じゃないバランスなんですね。これはミキサーは抵抗したと思いますよ。カットが変わったトタンに前のカットで強調していた音がほとんど聞こえなくなったりしますからね。でも、結局はその有り得ないミキシングが音までも立体的に見せているのに成功しているんですよ。

キースのソロが終わり♪悪魔を憐れむ歌 のイントロが流れて来た時には「そろそろ終わり?」と思い、淋しい気持ちになってしまいました。何故なら、このライヴをズーっと観ていたかったんです。いつまでも観ていたかった!今更、ストーンズのライヴフィルムかよ!と悪態をついていたオイラは、観始めてから1時間半、ズーっと終わらないで欲しいと思っていました・・・。そういう風に思える自分が幸せだとも感じていました。小学生の時に“牛も知ってるカウシルズ”で有名な『ビートポップス』という番組でストーンズのファンになってから40余年・・・ストーンズのファンで良かったなぁ・・・と、しみじみ思いましたね。そして、ここからが怒涛の4連ちゃん!“Let It Bleed”から♪Live With Me 。確か、アルバムレコーディングではベースもキースが弾いていました。ゲストで参加したクリスティーナ・アギレラがパワフルなパフォーマンスを見せますが、ミックは少しも負けてないんですよねぇ・・・以前、ボウイと共演した時もそうでしたが、ミックの声ってやっぱり人間じゃないね!っつーか、ミック自身が悪魔だな(笑)。♪Start Me Up は、忘れもしない!90年の初来日、日本の地に鳴り響いた記念すべき初のストーンズ・ナンバー!そのままアンコールで♪Brown Suger ♪Satisfaction 。挨拶が終わるや否や「up!up!」とスコセッシの声が飛ぶ中、ビーコンシアターからニューヨークの夜空へ!ライヴの余韻を残した終わり方も最高でした!「こんなに転がり続けて丸くならない石は見たことがない!」。Charも上手いこと言いますねぇ!このフィルムは間違いなく“転がっても転がっても丸くならない不思議な石”として是非『世界遺産』に登録して欲しい作品です。

オイラは『ブエナビスタなんたら』とかのドキュメンタリーが嫌いです。爺が枯れていい味を出している音楽なんてクソ喰らえ!です。枯れてるのを売り物にしてんじゃねーよ(そういうことじゃないんだろうけど・・・)。男は立たなくなったら辞めろ!立たなくなったら、立ってるフリをしろ!身体壊して入院したって「木から落ちて骨折した」と言って笑い話にするのが正しい不良ってもんだぜ!バンザ〜イ!ストーンズ!なんてたって、オイラはDecember’s Children だしね♪


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