suzu3neの雲収集家な日々

カテゴリ別に読む(別窓)→[blog Ver.]


2006年12月27日(水) 茶にごし。

明日の深夜に上京する予定です。
コミケに一般参加してきます。そして30日の夜に帰宅予定。
昨日まで家族旅行で沖縄に行ってきて、今日明日と仕事してるのに。
無茶すぎです。いや、自分のせいともいえるのだけど。

今は「街」の更新が中途半端のまま、年を越えそうな事だけが気がかりです。
orz

とりあえず、リメイク予定のMB用に書いていたテキストをUPして場を和ませ(?)てみます。
ちなみにどの辺りに差し込むかは検討中。下手するとまるっきりなくしちゃうかもしれません。


************************


 それは、光矢が十歳の秋に起こった事件だった。

 その歳の秋はいつまでも残暑が残っており、あくる日突然寒風が襲ってくるかと思えばまた暑さがぶり返す、そんな寒暖の差がいつもにも増して激しい歳だった。
 光矢はその日一日、自分の勉強部屋にと当てられていた部屋に閉じ込められていた。子供は邪魔なのだと直感的に悟り、光矢は黙って色鉛筆を握っていた。使い込んだ色鉛筆の柄は磨き上げられたように光っていて、光矢はいつだって、その長さが短くなり自分の手では持てなくなる日を恐れていた。
 その色鉛筆は、自分を実の子供のように可愛がってくれている、父の秘書である新庄切子が――もちろん、それは後々知った彼女の本当の職業であり、当時まだ幼かった光矢はぼんやり『お母さん代わりの他人』か『母方の親戚』だと思っていたのだが――新庄婦人が、光矢の誕生日プレゼントにと買ってくれた品だ。とりとめもなく絵を描くのが好きな光矢の為に、新庄婦人が海外から取り寄せてくれた百色からなる一揃い。
 使えなくなったと言えば買ってきてくれるだろうが、光矢はそんな日が来なければいいと思った。忙しい新庄婦人の手を煩わせてまで欲しい物ではないし、彼女が買ってきてくれる色鉛筆は高級なだけ使いやすかったが、同じ小学校の同級生達が持っている品とは全然違うだけ、いつも疎外感を感じていた。学校の購買で、自分で買い求めてしまっても良かったが、それは新庄婦人の好意を無にしているようで、どうしても自分の財布を取り出す事ができなかった。
 みんなが使っている学校指定の色鉛筆が欲しい――それを口にする事さえも光矢はためらってしまう子供だったのだ。
 光矢は自室の窓から外を見た。何台もの車が光矢の家の門前に横付けしては、老若男女問わぬ大人たちが降りてきて、厳しい面持ちでやってくる。皆、一様にうつむき、黒っぽい服装であるのが気になった。
 光矢は広い庭先に目を転じた。先にやってきていた大人達が、いくつかの集団になって密談を交わしている。小走りに行き来する若い男性は、伝令のようなものだろう。手早く口早に、主に言葉を告げては去ってゆくさまは、まるで餌をついばんでは飛び立つ小鳥のようだ。
 光矢はそこで、自分にあてがわれていた野鳥の餌台を気にした。動けなくなる前の父――その事実も、この日の後に知った事だ――が、この家の庭に住み着いた野鳥達の為に設えた背の高い木作りの台だ。野ざらしのそれの色合いは、木の皮そのものの色を伴った灰色にくすんでしまっていた。遠目にはそこに台があるとは思えぬ溶け込みようで、庭園にまぎれている。光矢も意識して眺めなければ、いつだって見落としてしまうのだ。
 だがその日は違った。父と光矢以外には新庄婦人ぐらいしか知らぬはずのその台の前に、鮮やかな赤の色が一つ、すくっと立っていたからだ。
 光矢はその赤の姿に見とれたまま、しばらくの間、全く動けずにいた。
 今朝から家に出入りする人々は皆モノトーンの色調で服を統一していたし、色らしい色を目にしていなかった事もあるだろう。
 その色の正体が、残暑の囁く秋口だとはいえあまりにも場違いな、一人の女性が纏う赤い薄手のドレスであったことも一因だろう。
 その女性の中に浮かぶ感情の欠片も感じられぬ表情に対し、どこで見たのかわからないが確かに見た事のある、そんな誰か面影を見出した事も起因しているだろう。
 何よりも、その女性の差し出す手に向かって次々とやって来る野鳥達の姿が、光矢の心を畏怖で一杯にしていたに違いない。
 我に返った光矢は、目を凝らして庭先の赤色を探した。鮮やかなその輝きは既になく、光矢はもどかしく赤の色鉛筆に手を伸ばした。
 忘れないように描き留めておきたかった。時間は沢山あったし、何よりも光矢は退屈していた。目の前にあった神秘的な光景は、少年の創作意欲を描きたてるのに十分な魅力を持っていたし、沈鬱な空気に差し込んだ緋色の眩しさは、別世界を垣間見たかのように胸の中を沸き立たせていた。
 光矢は全体の輪郭を描き始めた。


 廊下では大人達が静かに、でも急ぎ足で行き来するのがわかった。
 徐々に騒がしさは大きくなり、時に泣いているような女性の声も聞かれるようになった。
 光矢はまだ色鉛筆を握っていた。彼を迎えに来る人物もいない以上、光矢が外の世界で必要とされてはいない事を知っていたからだ。そして迎えに来る人物がいるとするならば、それは彼の母親代わりである新庄夫人を置いて他になかった。
 スケッチブックの中の女性は――というより、あまりにも印象的だったドレスを先に書き始めていた光矢だが――光矢の選ぶ色鉛筆の微妙な色使いに合わせて立体感を増してゆく。それらが現実に近くなればなるほど、光矢には不安が沸き始めていた。
 絵が完成するという事は、それだけ長い時間がたっているという事だ。だが誰も彼の元へは来てくれない。
 外の騒がしさを考えるに、何か大きな事件が起こったのは確かだ。
 僕の家なのにと光矢は一人、不満を抱いた。
 みんな勝手にやってきて、勝手に騒いで、それなのに僕を除け者にして。つまらない。こんな事なら、空央の家に遊びに行けばよかった。でも、遊びに行ってたらあの女の人を見られなかったから、これはこれでいいや。


やがて、その時間も終わりを告げた。
 ノックもなく開かれた扉の向こうには、背の高いオジサンが立っていた。はじめてみるその人は、厳しい顔つきと大きな目で光矢を見下ろし、「新庄光矢くんだね?」と訊ねた。
 光矢は急いで頷いた。
 偉い人なのはすぐにわかった。立っている姿から、その着ている服から、その気配から、何もかもが光り輝いて見えたからだ。
 そして怖かった。まるで光矢が新庄光矢でなければいいのにといわんばかりの目で、光矢を観察していたからだ。
「君のお父さんが亡くなった」
 怒ってるように彼は告げ、意味もわからずに――なぜならその時初めて、光矢は自分や新庄夫人と一緒に暮らしていた老人が、自分の父親だと教えられたのだから――描きかけの絵を抱えた光矢に、こう言った。
「今日から君は高篠光矢になる。そして私は君の一番上のお兄さん、高篠洸だ」
 自分の父親としか思えない年齢のその人は、嫌々ながらにそう言ったのだ。

 
************************

それではまた、レポやら更新やらお詫び(?)やらを大晦日あたりにでも。


 < 過去  INDEX  未来 >



カテゴリ別に読む(別窓)→[blog Ver.]
suzu3ne [MAIL] [HOMEPAGE]