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今さら何なんだ、という気もしましたが、 今朝の新聞(文化総合面)で、 イランの映画監督アッバス・キアロスタミが、 ビザの発給を受けられなかったばかりに、 NY映画祭(13日まで開催)への参加を見送らざるを得ず、 このことに抗議したフィンランドのアキ・カウリスマキ監督が、 同映画祭をボイコットしたという記事を読みました。 「イラン人の入国を望まないのならば、 石油資源のないフィンランドの人間にも用はなかろう」 など、かなり皮肉の効いた内容の長文のメールを 関係者に送ったとのことですが、 これだけの当てこすりを言える人が、 映画を撮ると、途端に無口になってしまうのが、 またまた皮肉ではあります(おもしろいけど)
そんなカウリスマキ監督は、20世紀末のあるとき、 次のようなサイレント映画まで撮ってしまいました。
白い花びら Juha 1999年フィンランド アキ・カウリスマキ監督
映画というのは、ストーリーだけでなく、 やっぱり“映像”なんだなーという、 この上なく間抜けな感想を抱きました。 というくらい、正直言って、ストーリーやプロットはトホホです。 ユハニ・アホ(う〜ん、フィンランド的名前)の原作に 材をとったそうですが、 これをごくごく普通にカラー、台詞つきで映画化していたら、 さぞやお安い復讐劇か何かになっていたでしょう。 「何考えて映画撮っているのかわからない」ところが魅力の 名匠カウリスマキは、モノクロ・サイレントで ムードたっぷりに処理していました。
農夫ユハ(サカリ・クオスマネン)と、 妻マルヤ(カウリスマキ映画の常連カティ・オウティネン)は、 細々とキャベツをつくり、それを売って生計を立て、 「子供のように幸せに」暮らしていました。 が、シュメイッカ(アンドレ・ウィルムス)という 都会から来た男の車が2人の家の故障し、 そこに助けを手を差し伸べたのが運の尽き。 マルヤは、シュメイッカの悪影響を受けて、 下品な化粧に軽薄な服でタバコすぱすぱ…という、 ユハにとっては我慢ならない女に変身してしまいます。 その上、シュメイッカの甘言に乗せられ、 都会でのリッチな生活を夢見て、 ユハを捨てて家出までします。 しかし、そこでマルヤを待っていた現実とは? そして、マルヤをあきらめきれないユハがとった行動は?
カウリスマキは、オウティネンに弱みでも握られているのか? と思うほど、彼女ばかりよく使いますが、 ここでも、「そりゃないだろう」な役を、彼女にやらせています。 シュメイッカはユハに、「若くてきれいな奥さんだね」と べんちゃらを言いますが(正確には、字幕で出るのですが) きれいか否かはともかく、若いはないでしょう、若いは。 オウティネンが女優として 非常に力を持った人であることはわかるけれど、 まるで、後々こうして無責任で口さがない映画ファンに、 突っ込んでもらいたくてキャストをしたとしか思えません。 ……とか思っていたら、都会に出てからの(哀れな)彼女に どんどん惹かれていきました。 やっぱりこの人は、大した女優です。
ところで、サイレント、と言い切ってしまいましたが、 実は1カ所だけ音声が入ります。 酒場で歌手がシャンソンのある名曲を歌うシーンでした。 何かを意図したシーンだったのか、その辺はわかりませんが、 唐突な感じでもなく、映画になじんでいて、 しかも印象に残ります。
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