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2002年09月10日(火) 羅生門

ベネチア国際映画祭のシーズンです。
今回、注目の北野武監督の再度受賞はなかったようですが、
この世界最古の映画祭(1932年開始)と言われるイベントは、
日本人の映画ファンにとっても昔からなじみの深いものでした。
黒澤明監督の「羅生門」、稲垣浩監督の「無法松の一生」、
そして記憶に新しい北野武監督の「HANA-BI」と、
日本勢は、3度のグランプリ(金獅子賞)をゲットしています。

その中で、1951年9月10日、『羅生門』が、
ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したそうです。
では、やっぱり……

羅生門(Rasho-Mon) In the Woods
1950年日本 黒澤明監督


芥川龍之介の『藪の中』を原作として、
“真実なるもの”を見極める困難さや、人間のエゴイズムを
独特の映像美を持って表現した傑作ですが、
芥川といえば、御存じのように、
そのものずばり『羅生門』という作品もあります。
私自身は、『藪の中』は、
なぜか高校の英語の教科書に載っていたものを読みましたが、
『羅生門』は読んでおりません。
映画の中に、“羅生門”なるものは登場しますが、
正直、なぜ『羅生門』っぽさを加味する必要があったのか、
ちょっと理解しかねます。
『藪の中』の、全く同じ事件について違う人間に証言を求めただけで
生じるスリリングさだけで、十分ドラマを感じたものですから。

舞台は平安時代。
大雨の降る羅生門の下で、
杣売りの男(志村喬)、旅法師、下人が、
3日前の不可解な事件について話をしています。

とある藪の中、検非違使(森雅之)が殺され、
盗賊・多襄丸(三船敏郎)が
殺人の容疑者としてとらえられます。
その後の取り調べで、
多襄丸、
亡くなった検非違使の妻・真砂(京マチ子)、
そして、霊媒師の口をかりた検非違使の霊の証言が、
それぞれ全く異なっていたのでした。
1つだけわかることは(非常に乱暴な言い方になりますが)
証言者それぞれの「我が身かわいさ」だけでした。
一体、真実は那辺にあるのでしょう?


ある事件が起こったとしましょう。
容疑者Aを目撃した人が2人いて、仮にB,Cとしますが、
Aについての証言は、それぞれこんな感じでした。

B「帽子をかぶった若い男でした」
C「背が高く、やせ型の若い男で、
 黒い帽子をかぶり、赤い服を着ていました


あなただったら、どちらを信用しますか?

人は、あることについての情報が多いと、
それが真実かどうかの見極めをする前に、
それを信じてしまうきらいがあるといいます。
もちろん、芥川の、あるいは黒澤の言うところは
(注:この場合の“敬称略”は、ある種の敬意です)
もっと深遠なのだとは思いますが、
毎日毎日ひしめき合う情報の中に
身を置いて生きている現代人に対し、
警鐘を鳴らしているようにも思えます。
杣売りの志村喬でなくても、
「わからねぇ、俺にはわからねぇ」
と言いたくなるような状況になったとき、
真実を察知できる鋭敏さがほしいものですが……。


ところで、『藪の中』は、
『MISTY』というタイトルで、日本・香港合作で、
1997年に再び映画化されました。
真砂が天海祐希、検非違使に当たる役を金城武、
多襄丸を豊川悦司という濃ゆい顔合わせですが、
私は見ておりません。
また、こちらは今回あれこれ検索していて初めて知ったのですが、
ポール・ニューマン主演、マーティン・リット監督の
『暴行』なる映画も、
『藪の中』に材をとっているそうで。


ユリノキマリ |MAILHomePage