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2002年05月04日(土) アンダーグラウンド

1980年5月4日、ユーゴのチトー大統領が死去しました。
第二次大戦下、ドイツ占領軍に対してパルチザン闘争に打って出て、
戦後の1953年に大統領に就任し、
スターリンとの対立もあり、独自の社会主義路線を進めた人のようです。
※パルチザン…武器兵力の劣る一般の農民、労働者階級が組織した非正規軍のこと。

この人から連想される映画といえば、かの国の名匠の、
あの映画しかないでしょう。


アンダーグラウンド  Underground
1995年 ドイツ・フランス・ハンガリー合作
エミール・クストリッツァ監督


いいタイトルです。
直訳「地下」とか、あるいは「地下の人々」なんてのもよかった、かも。
1941年、ナチスドイツのユーゴ侵攻の後、
地下に潜って生活する人々の、日常の喜怒哀楽、狂気、享楽、
そういうものがぎっしりと詰まっていました。
なので、その分非常に長いです。
ビデオ1本で収まったのが不思議なほど。
(つまりは3時間以内ってことですが)

1つ1つのエピソードをあげつらって云々するのはばかばかしいほど、
目まぐるしくあらゆる人々が登場し、ナンカするという感じです。
ユーゴの苦難の歴史の一編でありながら、
オープニングの底抜けというか、天井知らずのアホっぽさだけでも、
映画史に残るかもしれません。
(そこだけ一緒に見ていた私の相方が、
「うわ〜、オバカでいいなー」とぼそっと言ったほどです)
…そこまで言うと誤解されそうですので、
「パレードのシーン」と言い換えましょうか。
それだけなんですが、なんというか、漫画に描いたような風景でした。

でも、結末は余りにも皮肉なものでした。
(ネタバレ防止のため、以下、自主規制します)

世界史で教わったり、もっと進んで、
自ら求めて本を読んだりしただけではリアルに伝わってこない、
そんな歴史の気分が充満している映画だったと思います。
理解するというより、感じて堪能する映画です。

人が生きていくことって滑稽だなあと思わせる映画には、
傑作が多いものですが、
(きっと、人生の本質や、それに近いところを描いているからでしょう)
中でも出色の出来といえるのではないでしょうか。

ところで、E.クストリッツァの映画というと、
絶対タイトルで誤解されそうな『パパは、出張中!』というのもありました。
これは、1950年代、『アンダーグラウンド』の人々が地下にいる間、
地上で起こっている小市民の事件を描いた、
よく言えば素朴なつくりの、悪く言えば結構辛気臭い映画でしたが、
奇妙に印象に残るものであり、個人的にはお勧めです。
いつかこちらで取り上げさせていただくこともありましょう。

人が生きていくことの滑稽さといえば、
先日、私の父が急死したのですが、
母から連絡を受けて、
家族そろってとるものとりあえず実家へと向かいました。

久しぶりに会った、何となく人見知りな次女に、私の祖母は、
キッチンで牛乳を飲ませて懐柔しようとしたのですが、
牛乳瓶に慣れていない次女は、その滴を床にこぼしてしまいました。
そこで、「あらら、これで拭きな」と祖母が私に手渡したのは、
何と、亡くなったばかりの父が使っていたハンカチでした。
(テーブルの上にたまたまあったやつです)
私は思わず、笑ってしまいました。
その話を後から相方と長女にしたら、
やっぱり瞬時にして吹き出しました。
こうして文章で書くと、ちっともおもしろくないのに、
どうしてあのとき、あんなにおかしかったのか…?

生きていくことって、リアルです。
『アンダーグラウンド』の登場人物の1人が、
「腹ぺこのまま死にたくない」という趣旨のセリフを言っていたとき、
ちょっとぞっとしたのですが、
今なら笑えそうな気がしてきました。


ユリノキマリ |MAILHomePage