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明日5月21日(※2001年)、 カンヌ国際映画祭の結果発表があります。 日本からは10本が出品されたそうですが、 出品作の監督の中に、 「是枝裕和(これえだ・ひろかず)」という名前があります。 95年、ヴェネチア国際映画祭金獅子(金のオッゼラ)賞を受賞した、 宮本輝原作の映画化『幻の光』の監督でもありますが、 今日は、同監督の99年の作品を御紹介します。
というか、2年前1999年5月20日、 78歳で亡くなった喜劇俳優の由利徹さんを 追悼する意味で取り上げようと思ったのですが、 ついカンヌの名前に引っ張られ、 まずは監督の紹介と相成りました。 ただ、正直申し上げれば、 私は是枝監督には興味がありますが、 カンヌには毎年余りそそられません。 映画ファンの風物詩として出したかっただけです。
ワンダフルライフ After Life 1999年日本 是枝裕和監督 是枝裕和【小説ワンダフルライフ】ハヤカワ文庫
私は寡聞にして知らなかったのですが、 人は死ぬと、あの世の入口で裁きを受けるのではなくて、 「生前、最も印象に残った想い出」について面接官に聞かれ、 それを映画として撮影してもらい、 上映会鑑賞後、全く「この世」の記憶が抹消され、 「あの世」に旅立っていくのだそうです。 面接官になる人々は、想い出を選べなかった人、 選ぶのを拒否した人たちです。
どの宗教観にも当てはまらない、 この発想に、まずは強く惹かれましたが、 これは「それ」だけのワン・アイデア映画ではありません。
死ぬというのは特別なことではないなあと、 改めて思わされるのは、 妙な話ですが、「死んだ人」の中には 見るからに健康そうな美少女もいれば、 大往生だったのでしょうねと思わせる御老体もいます。
ベテランの谷啓、 自分が死んだとき3歳だった娘が成人するまでは 「あの世」に行けないという寺島進、 ひょうひょうとした内藤剛志、 若い美青年に見えて、実は70を超えているARATA、 (20代で戦死し、何十年も想い出を選べなかったので) どうしても素直になれない小田エリカが 面接官として登場します。 想い出を選ぶ方の役者さんは、 一部を除いてほぼ素人だそうですが、 人間、あんなに自然に振る舞っても、 結構映画の世界に溶け込めるものだなと、 妙に感心しました。
全体に静かで抑揚に乏しいけれども、 妙にコミカルなシーンもあり、 「ドキュメンタリー調のフィクション」というジャンルがあるとすれば、 その中でもかなり成功しているのではないでしょうか。 国際的な評価も高く、 ハリウッドでリメイクという噂も聞きましたが、 それだけは勘弁してほしいと思いました。 国民性を云々する気はありませんが、それでも、 日本人監督のデリカシーが生んだ傑作だと思いたいのです。
ところで、由利徹さんの役ですが、 とにかくエロジジイという設定でした。 「おネエちゃんミシュラン」が頭の中にしっかりあり、 胸が小さくても、スリムな女の方がぐあいがいい云々、 面接官をうんざりさせるほどに「こればっか」なのでした。 それこそが生きている証だったのでしょう。 誰も由利さんを責められません。
たまたま私はこの映画の予告を、 由利さんが亡くなって日が浅いときに偶然見たので、 何だかどきっとしました。 もしも『ワンダフルライフ』の世界が本当にあるのなら、 素顔の由利さんは、どんな想い出を選んだのでしょうか。
個人的に最も印象に残っていることの1つに、 内藤剛志がいれたあつあつの紅茶の描写があります。 もあっと湯気が上がって、 今まで映画の見たどんな紅茶よりも熱くておいしそうでした。 イギリス映画ですら、おいしそうな紅茶が拝めるシーンって 皆無に近いと、私は思っているのですが……。
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