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Space Sonic■2006年11月10日(金)
3時になろうとしていた。
僕はパソコンに写る自分の日記を見つめ携帯を右手に持って、受話器の向こうの生徒が泣き止むのを待った。
…大丈夫か。
「うん」
そっか。
「あのね、言いたいことがあるの」
ふむ。
「あ、でも、当たり前すぎることなんだけどね」
ん?
「あの、ほんとに普通なことしか言わないからね、いい?いい?」
僕はすこし笑った。
どうぞ。
「…ありがとう」
どういたしまして。
「うれしかったの」
そっか。あ、でも、怒られるかと思った。君にとって決して楽しくないことまで書いてるから。
「ほんとそうだよー。勝手に出演させんな変態!」
いやいや。
「これはもう出演料払ってもらわなきゃね、先生」
はいはい。
「先生、明日会わない?私が仕事へ行く前に」
パシリだったらごめんだね。
「何でそうゆうこと言うのー。つまんない」
そういう会い方は好きじゃない。
「だって、私に会いたいでしょ?」
生徒は、私に会いたくなくなっちゃったの?と続けた。
そんなことないよ。
「だったら」
うん。
「会いたいと思ったときに会う、やっぱこうでしょ」
そうだね。
僕たちは翌日の10時に迎えに行く約束をして電話を終えた。
パソコンの時計は4時を指していた。
その6時間後、僕は車で彼女を迎えにいった。
生徒はやや短めのスカートに紫の品のよいニットを羽織っていた。
すべて彼女が店長をやっているショップの服だ。
22歳になった彼女の顔は、あどけなさを残しつつ今までになかった美しさを持っていた。
ほほのふくらみは薄くなり、その形を浮き上がらせたあごの骨格は僕に憂いを伝えるかのようだった。
秋晴れと言う言葉が似合う、雲ひとつない青空が広がっていた。
彼女が車に乗り込んでから、僕たちはどこか喫茶店を探そうと話した。
伝えたいことはもっと他にあったのに。
20分位して一軒の喫茶店に車をとめた。
2人ともアイスコーヒーとモーニング・セットを頼んだ。
生徒は携帯を開き、これが私の彼氏だよと笑いながら僕に見せた。
「いろいろ写真があるんだー、見る?」
ああ、遠慮しとくよ。
そう、と答えて彼女は携帯を閉じた。
僕はその時彼女がどんな表情をしているかを知りたくなくて、テーブルの上の小物へと目をそらした。
その後トーストと共に出てきたゆで卵は疑問を感じるほど熱かった。
これじゃ食べられないと言う僕を生徒は茶化し、また、僕もそれに合わせていた。
伝えたいことはもっと他にあったのに。
冷めた卵を僕が食べ終えたころ、生徒はこの火3本目のマルボロ・メンソールに火を着けた。
何分か沈黙が続いた。
僕は生徒を見た。
彼女は斜め上を向き、眼を細めてタバコの煙の消え行く方を眺めていた。
僕はその表情がとても懐かしかった。
先生のブログ読んだよ、と彼女の方から切り出した。
「私ね、“ゲームオーバー”が好き。2の方ね」
ああ、最悪な気分を書いた日ね。この日のこと覚えてる?
「全然覚えてない」
さいあく。
喫茶店で1時間くらい過ごし、僕たちは特に目的も無かったが新しく出来たショッピング・モールへ向かった。
HMVへ行き、生徒は「フランキー・Jが今いちばんいいんだよねー」とCDを探したが、見つけられなかった。
「しょうがないから、こっちにしとこうよ」
と彼女が僕に差し出したのはエルレガーデンの新しいアルバムだった。
ちょうど店内にSpace Sonicが流れていた。
車に戻って彼女を仕事場まで送った。
エルレのとがったギターの音が心地よかった。
しばらく聞き入った。
伝えたいことはあったけれど。
「そこで右に曲がったらすぐのところで降ろしてね」
僕は言われた場所に車をとめた。
「ありがとう」
生徒はドアを開け、車の外に足を踏み出した。
その時僕は彼女を呼び止めた。
太陽の光が強すぎて、僕は振り返った生徒の表情をはっきりと見られなかったが、僕は言った。
好きだ。
彼女は、おどけた声で
「朝からキモいこと言わないでよう、もう」
と笑った。
それに対して僕はしかめっ面で舌をべええとだして応えた。
帰り道、僕はボリュームを上げてエルレのアルバムを流した。
Space Sonicの歌詞に僕の心はつかまれた。
こんな気持になったことがあるかい
自分はこの地球上で誰よりも能無しじゃないかなって
僕に、なぜここに立ちすくしているかなんてきかないでよ
僕は僕自身の“かけら”を見つけたんだ
僕は僕自信の輝き、ファンタジー、そしてよき思い出を見つけたんだ
それは今までずっと君の中にあったんだ
それは安っぽくても、素晴らしい感情なんだ
僕は君もこの場にいてくれたらと願っているよ
僕は、そうしたものと共に生きてゆく術が分かったんだ
僕はどこへも行かない
僕は、僕たちはお互いを苦しめるだけだと思っていたけど
それは間違いだったんだ
僕も君も分かっていたはずなんだ
この悲しい雨を止めてくれる誰かを待ち続けるなんてまったく意味がないと
雨、たかが雨じゃないか
僕たちはたとえ暗闇の中にいたとしても、それをふっとばすことだって出来るんだ
“Space Somic” ELLEGARDEN & “Hello” oasis
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