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僕は、僕の言葉を君の心に響かせたかった■2006年11月09日(木)
僕は、この日記の主人公である「生徒」本人にこの日記を見せた。
どう、かな?
僕の問いかけに対して電話の向こうで彼女は何も答えなかった。
1時を過ぎた真夜中、マウスをクリックする音だけが受話器から聞こえた。
あのさ、今どこら辺だ?
「ん、今ね、3月26日」
速いよ。ページを送るたびに言ってよ。
「ん、読むの速いから、どんどん読んでるところだから」
カチッ、カチッ。
静かにマウスの音だけが響く。
「生徒」が読んでいる。
4年経った今、彼女が主人公になっている僕の日記を。
書いていた頃から、いつかは見せたいと思っていた。
彼女の真正面に全力で僕の気持ちをぶつけたかった。
それが彼女に受け止めてもらえるかどうか分からなくても、思い切って。
この日の訪れはずっと前から想像されていたことだったにもかかわらず、僕の心は強く揺さぶられた。
口数少なく読む生徒がどう受け止めているかを知りたかった。
「ああー、そうそう、こんなこと言ってたなー、私」
そうだね。
「すごく傲慢な子じゃない?私」
ま、それは多少の演出も加えてるからね。
僕と生徒はペースをそろえて読み進んだ。
9月28日に差し掛かったとき、僕ははっと息を呑んだ。
“生徒の声が鼻声だった”
この一文を読んで、僕は鼓動が止まるほど苦しくなった。
これは半月後に判明する妊娠の兆候だったのだ。
生徒に読むのを止めさせなければ…けれどなぜか言葉は出なかった。
まもなく生徒は10月18日に到達してしまった。
「…ああ…これか…」
彼女は一言だけ発するだけだった。
僕も何も言えなかった。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
おい、今何日あたりだい?
カチッ、カチッ。
どうした?
ようやく帰ってきた生徒の声は先ほどと違って、急に弱くなっていた。
「先生、私のことで泣いた?」
泣いた…こともあったかな。そこに書いてあるとおりだよ。
「悲しくなってきた」
どうして?
「先生…ぜんぜん幸せそうじゃない」
生徒の声が詰まっていた。
そんなことないよ。
「私、先生の事、不幸にした?」
全然。全くそんなことないよ。
彼女は何かを言おうとしていた、でも僕の耳に届いたのは嗚咽ばかりだった。
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