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2006年03月06日(月) 第134週 2006.2.27-3.6  MPCメンバーの交替問題、外国人登用の可能性も

今年のシックス・ネーションズは混戦模様になっています。3月6日時点、2勝1敗で4チーム(イングランド・スコットランド・アイルランド・フランス)が並んでおり、特に強豪のイングランドとフランスを撃破したスコットランドの七年ぶり優勝への期待が高まっています。確かに、残る対戦相手(アイルランドとイタリア)から考えて優勝に一番近い位置にいるのは間違いないでしょう。ただし、アイルランドも優勝候補であり、またフランスを苦しめた今年のイタリアも侮りがたいようです。

(MPCメンバーの交替問題)
先日来、フィナンシャルタイムズ紙で英国の中央銀行であるイングランド銀行の金融政策委員会(Monetary Policy Committee、MPC)のメンバー交替を巡る一連の記事が目を引きました。MPCとは、イングランド銀行の金融政策を決定する委員会で(日本銀行の金融政策決定会合、米FRBの連邦公開市場委員会=FOMCに相当)、毎月一回の頻度で開催され、政策金利の上げ・下げなどがメンバーの多数決により決められます。
メンバーは9名で構成されていて、内訳としては、イングランド銀行総裁、副総裁2名、イングランド銀行内で任命される2名の理事(以上5名が「内部委員」)、その他に財務大臣から任命される「外部委員」が4名います。この外部委員のうち2名が今年5月末に任期切れを迎えるということで、その後任選びがちょっとした議論を引き起こしています(ただし、任期が切れる2名のうち1名は任期延長の可能性もある)。

「外部委員」というのは、中央銀行から独立した視点で金融政策について意見を述べることを期待されている人たちです。一般的に中央銀行の内部で形成される金融政策はタカ派的(利下げに対して消極的であり、利上げに対して積極的)になる傾向があるため、MPCメンバーに外部委員が入ることで、MPC全体としてより公正で適切な意見形成がなされると考えられています。
実際に、過去のイングランド銀行において、上記の傾向(内部委員:タカ派的、外部委員:ハト派的)は顕著に顕れています。

さて、一連の記事の発端は、MPC外部委員のOBが連名で投稿した一通の公開書簡でした(2月25-26日付FT紙)。書簡のメッセージは、「現在、財務省内で選考が進められている外部委員の後任として、経済の専門家ではない人物を推す声があるようだが、それは極めて危険」という意見具申でした。専門家集団である内部委員の面々と対等に議論をするためには、外部委員も経済・金融に関する専門的な知識装備をした人物であることが必要条件だということです。とりわけ、現在のイングランド銀行総裁であるマービン・キング氏は、アカデミズムの世界で十分な実績を残した学者出身の人物であるため、経済全般に関する知見が豊富で、かつ非常に強いリーダーシップを発揮する人物であるため、それに伍していくためには十分な専門知識を持った人物であることが必須であるとのことです。
公開書簡に対して、財務省の事務次官が反論投稿をし(27日付同紙)、さらに同日、FT紙記者による長めの論説記事が掲載されました。
本件の背景として、財務省による外部委員の選考過程に透明性が欠けているということもあるようです。

(外国人登用の可能性も)
さて、27日付FT紙によると、外部委員の要件として英国人である必要はないらしく、財務省は国内の人材に限らず「多くの国から選び出した国際的に著名なエコノミストたちも候補」として選考を進めているそうです。実際に過去、英国籍ではない外部委員が任命されたことがありました(オランダ人やアメリカ人)。今回、米国の大物エコノミストであるロバート・バローやジョン・テーラーの名前も、候補者として取り沙汰されているようです。

英国では、国家公務員の中にも外国籍の人物がけっこういます。日本では考えにくいことですが、公的機関の重職でもまったく国籍にこだわらないというこの国の方針は一貫しています。とくに米・英の人材交流は頻繁な印象があり、両国間のspecial relationshipの実体は、こんなところにも垣間見ることができるのかもしれません。
背景には、定められた職務に対して必要なスキルを備えていることが最大の要件という合理主義があるのでしょうが、日本との対比で言うと、コミュニケーション(言語)能力に関するハードルが低いという点も大きいでしょう。英国の母国語が英語であることにより、英国内だけから人材を求める場合と比較して、質と量の両面で可能性が何倍にも広がっているということです。
日本と同じ島国でありながら、しばしば海賊国家と言われるように外向きの島国根性を持つ英国と内向きの島国根性をもつ日本との違いは、こんなところからも生じているのかもしれません。


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