Experiences in UK
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2005年06月06日(月) 第94-95週 2005.5.23-6.6 英国でみる大リーグ、日本人の異質性

(国名=イングランド?)
先日、ウェッブ・サイトであるB&Bに予約を入れようとして、ウェッブ上のフォームに従って必要事項を記入していた時のこと。自宅住所の記入欄にCountryという項目があり、プルダウン・メニューから選択する形になっていました。
当地では、英国の呼称は大まかに二通りあります。一般的には「UK(United Kingdom)」ですが、「Britain」と表記するケースもあります(エコノミスト誌は頑なにBritain)。そこで、アルファベット順に並んでいる世界の国々の名前から、それらを探そうとしたのですが見つからず、「まだ呼称があったかな」と考えた時、リストの中から視界に入ったのが「England」という「国」名でした。その時点で初めて気づいたというのは、この国に二年近く住んでいる割にはぼけているのかもしれませんが、普通に考えて、JapanやUSAと同列にEnglandやWalesが出てくるのは不自然であることは言をまたないでしょう。

(英国で見る大リーグ)
日曜の深夜、民放テレビ局チャンネル5で大リーグ中継を流す番組があります。一般の英国人は野球に関する知識も興味もゼロなので、一部マニアと在英外国人向けの番組なのでしょう。
5月30日(月曜)がバンク・ホリデー(休日)だったので、はじめてこの番組を見てみました。カードが良かったことも見てみようと思った理由の一つです。ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスの試合でヤンキース・スタジアムからの生中継でした。
番組のMCはチャンネル5の英国人スポーツ・キャスター(らしき人)がつとめていますが、試合の実況はアメリカの番組をそのまま流すという形です。試合が始まる前とイニングの合間にスタジオの英国人二人がぺちゃくちゃお喋りをするというパターンの番組でした。

この日、ヤンキース松井は六番に降格され、しかもDHでの出場ということで、ちょっとがっかりしました。結果として凡フライ三つの三タコと見るべき点がなかったのも残念でした。シェフィールド(ヤ)とかオルティス(レ)の文字通りメジャー級のホームランを見ることができたのは良かったのですが。
ところで、それまでの四番打者・松井の最近の不振や六番への降格について、英国人キャスターはほとんど話題にせず、日本人としては違和感を禁じ得ませんでした。また、番組冒頭では、両チームの主な選手の最近の映像が流れるのですが、そこにも松井の姿は見られませんでした。
今季はほとんど四番を打ってきたものの、英国人野球マニアの間では、まだヤンキースのスター選手として認知されていないのでしょうか。ただ、さすがにイチローは大リーガーのスター選手として認知度が高いようで、キャスターの後ろのパネルにイチローの大きな写真がはめ込まれていました。

(日英の運転マナー)
日英の車での交通マナーにおける大きな違いの一つとして、「譲り合い」の精神があげられます。
英国人ドライバーは、日本人と比べて、非常によく道を譲ります。具体的には、片側一車線の道路で道路の左側にスーパーがあり、対向車線の車が右折してスーパーに入ろうとウィンカーを出している場合、かなりの確率でこちら側の車は一旦停止してパッシングライトで合図しながら、対向車を右折させます。日本だと、信号などで車の流れが滞らない限り、なかなか入れてもらえないのが一般的ではないでしょうか。また、だからでしょうか、そもそも日本では交差点以外の場所で右折しようとすることも少ないように思います。

これは、なにも日本人が英国人と比べて心が狭いから、というわけではないでしょう。
では、英国人がなぜ譲るのか。私の推測では以下の理由が考えられます。第一に、自分がちょっと譲るだけで対向車線の渋滞が一発で解消されるのだから、ここで譲るのはきわめて合理的だという合理主義に基づく考え方が身に付いている。第二に、自分も隣のレーンをまたいでの右折はよくするから譲ってやろうという互恵主義的な発想。第三に、他人に親切を施すことで自らの自尊心を満足させさることを好む英国人の国民性。
三番目の点は、とりわけ印象論的な話ですが、昨年末の津波募金やライブ・エイド(今年はライブ8)などのチャリティ活動における英国民の盛り上がり方や日常的に接する英国人の様をみていると、英国人のこのような国民性を感じずにはおれません。このような英国人の傾向に対して偽善的という批判は簡単ですが、私にはそれだけではない日本人のメンタリティとの本質的な差異もあるのではないかと思える部分があります。

(親切行為にみられる日英の違い)
先日、近所の国道を車で走行していたところ、どうやら事故直後とみられる場面に遭遇しました。状況はよく分かりませんでしたが、当事者とみられる一〜二台の車の近くの路上にけがをした人が横たわり、数人が介抱していました。けが人の状態はさほどひどくない様子でしたが、警官や救急車はまだ到着していませんでした。
事故現場の隣のレーンを徐行しながら横目で見ると、事故の規模の割には沢山の車が現場前後に停車していました。どうやら事故現場に遭遇した人が、手助けのために自主的に車を停めていたようでした。一人の男性は、二次被害を防ぐために、周囲の交通整理をかってでていました。

日本人の場合、それなりに大きな事故で明らかに助けに行く必要があるケースでない限り、車を停めてまで他人の手助けをする人は少ないような気がします。我々日本人は、例えそれが善行であっても、周囲が十分に納得する理由がない限り、自分だけの考えで行動に移すことに対して逡巡するメンタリティがあるように思います。日本人も英国人も親切心の程度に大差ないと思いますが、それを積極的に行動に移すか否かは国民性の違いに根ざしているのではないでしょうか。
根本にあるのは、個人主義に対する温度差とその浸透度合いではないかと思います。親切行為に限らず、右に習え主義が行動パターンの根幹にあることを認めざるを得ない日本人とあくまでも個人の判断をベースにした行動原理が基本の英国人との差異です。

(日本人の異質性)
上記は日本人(私)の目から見た日英の文化比較の一端ですが、先日、ガーディアン紙に英国人の目から見た日英文化比較を論じた記事が掲載されていました(20日付、”East is east -get used to it”)。この記事においても、日英の違いの根本にあるのは、国民のエートス(個人主義か集団主義か)の違いであると論じられていました。

同記事では、(西欧と比べた場合に)日本独特なものとして観察される社会現象の例えとして、先だってのJR西日本の鉄道事故の際に同社トップが辞任することで責任を取ろうとしたことや、90年代以降に経済低迷が続いたにもかかわらず失業率の上昇が限定的にとどまった点、日本の歩行者が頑なに信号を守る点などがあげられていました(最後の点は、「西欧全般と言うよりも英国と比べた場合だけどね」として紹介されていましたが)。これらは、個人の判断よりも、集団として判断や規律の遵守が重んじられる日本社会に独特の傾向を示す証左として紹介されていました。
論者は、明治維新以降の日本は、物質的な面では積極的に西欧化を進めてきて成功した一方、社会の在り方などの面では頑なに伝統を遵守しており、昨今のグローバル化の流れにも影響されていないとしています。我々日本人しては、「精神的な面でも、西欧的な価値観がかなり浸潤してきている」と言いたいところですが、阿部謹也氏が指摘するように、やはり日本には「世間」を何よりも重んずる傾向が今も残っていることを否定できないでしょう。

ガーディアン紙論説は、このような日本の独自性について、批判するわけでも賞賛するわけでもなく、長所と短所を列挙したうえで、事実として淡々と紹介している記事でした(インプリケーションとしては、英国人などによる西欧中心主義的な思考パターンへの批判がある)。また、これは日本に限った話ではなく、中国や韓国などについても大なり小なり当てはまるだろうとも付言しています。

このような日本に対する見方は、一昔前の日米貿易摩擦はなやかなりし時代であれば、「日本異質論」として日本では不快感をもって受け止められていた意見でしょう。しかし、改めて冷静に論じられると、やはり我々の社会の独自性を認めざるをえないのかなあと思います(少なくとも西欧人からはそのようにみられていることを)。
現に、日本人のみならず様々な外国人と接する機会が多い知り合いの英国人にこの記事への感想を聞いたところ、やはりこのような主張に同意するとのことでした。善し悪しは別にして、日本人の行動パターンをみていて得られる印象は、個人よりも集団を重視することだそうです。西欧人に刷り込まれているステレオタイプな日本人観なのでは、と重ねて尋ねても、「自分の体験上からも、日本人は他のアジア人と比べても個人主義(個人の自由を認める/主張する)の度合いが薄い印象」とのことでした。

日本で「個人の自由」を強調しようとすると、すぐに放埒という連想がなされるきらいがありますが、英国における「個人の自由」を重んじる考え方とは、なにか次元の異なる議論であるような気がします。さらに言うと、英国人とこのような話をしていると、彼らの言うフリーダムは米国人のそれとも違うのだ、と英国人が言いたそうに感じる場面があります。
残念ながら、この辺りのことを徹底的に英国人と議論する英語力を持ち合わせておらず、自分で考えてもうまく言い当てることができないのですが・・・。


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