Experiences in UK
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2005年03月14日(月) |
第83週 2005.3.7-14 ラグビー・イングランド代表の苦境、オフサイドはなぜ反則か |
(ラグビー・イングランド代表の苦境) ラグビーのシックス・ネーションズ大会は、全日程のうちあと1週を残すのみとなりましたが、今年のイングランド代表は一勝三敗という惨憺たる結果となっています。先週ようやくイタリアに快勝しましたが、それまでは僅差の敗戦が続きました。やはり現在のイングランドは、チームとしてのリズムが完全に狂ってしまっているようです(2月14日、参照)。 三試合目のアイルランド戦の後は、レフェリーの誤審によってイングランドの2つのトライが失われたのではという疑惑が大きな話題になりました。私もテレビ観戦していましたが、かなり微妙(もしくは不透明)な判断でした。
とくに惜しかったのが1本目の幻のトライです。ハーフウェイ・ラインあたりから相手陣内深くのオープン・スペースに蹴り上げたボールを、走りこんだバックスの選手が見事にキャッチしてそのままトライをするという非常に美しいトライ・シーン(のはず)だったのですが、審判の判定はバックスの選手が「オフサイド」の状態だった(ボールがキックされた時点でボールより前にいた)ということで、トライ不成立となりました。 テレビ画面では、キックの時点でのバックスの選手の位置ははっきり分からなかったのですが、かなり微妙だったことは確かで、私としては普通はオフサイドととらないのではと考えられるような位置関係だったように見えました。
(呪われたイングランド代表チーム) 現在のイングランドは運にも見放されているということなのでしょうが、試合後に監督のアンディ・ロビンソンが今回の誤審問題を糾弾する姿勢をみせたことが、イングランドの泥沼状態をいっそう際立たせたともいえます。 一部メディア等からは、試合後の公式インタヴューの場で審判批判をした同監督の姿勢は不適切であると非難の声があがりました。BBCのウェッブ・サイトでは、かつてのオーストラリアの名選手デビッド・キャンピージーが、「誤審問題をいつまでもごちゃごちゃ言うのはみっともないからやめろ」という厳しいコメントを出していました。
アイルランド戦では、本来のキャプテンであるジョニー・ウィルキンソンの負傷欠場でキャプテン代行を務めてきたジェイソン・ロビンソンが負傷してしまい、シックス・ネーションズの残り試合を欠場することになるというおまけもつきました。踏んだり蹴ったりですね。 さらに、先週末、新キャプテン代行マーチン・コリーのもとでようやく一勝をあげたのは良かったのですが、さらなるバッド・ニュースが飛び込んできました。負傷欠場が続いているジョニー・ウィルキンソンが、久々に地元のゲームに出場したのですが、痛めていた左膝を再び悪化させて途中退場したそうです。ウィルキンソンは、2003年11月のW杯決勝戦の延長試合終了間際に伝説的な決勝ドロップ・ゴールを決めてから以降、国際試合には一切出場していません。
(オフサイドはなぜ反則か) さて、ラグビーやサッカーなどにあるオフサイドというルールは、ちょっと分かりにくいルールです。 最近、「オフサイドはなぜ反則か」(中村俊雄、平凡社ライブラリー)という興味深いタイトルの本を日本から取り寄せて読みました。初版は1985年に上梓された本で、ラグビーなどの世界では古典的な名著とされてきた本です。スポーツのルールが形成されてきた過程を時代や社会の変化に関連づけて考察するという立場から、フットボールにおけるオフサイド・ルールに焦点を当てた本です。 オフサイドというのは、ボールを相手陣に運んで得点を競い合うのが目的の競技であるにもかかわらず、プレーヤーはボールの前に出てはいけない(したがってボールを前方にパスすることを禁じる)という、ある意味で不自然なルールです。このような不自然かつ不合理なルールが、なぜどのように形成されてきたのかというのが、本書の背景にあるそもそもの問題意識でした。
二つのチームのプレーヤーがフィールド内の自陣と相手陣に入り乱れて競技が行われる代表的な球技について、オフサイド・ルールが厳しく適用される順に並べると、ラグビー、ホッケー、サッカー、アイス・ホッケー、アメリカン・フットボール、バスケット・ボール、となります。ホッケーとサッカーは、相手陣内にいる時だけオフサイド・ルールが発生しますが、ラグビーでは相手陣でも自陣でもオフサイド・ルールが適用されます。 一方、アイス・ホッケーは相手側の氷域内にパックを持ち込む際だけオフサイド・ルールが適用されるそうで、アメリカン・フットボールはゲーム開始時のスナップバックの際のみです。そして、バスケットボールに至っては、ルールの中にオフサイドという概念はまったくありません。 前者三つの競技は欧州(英国)で生まれて、欧州を中心に発展してきたスポーツであるのに対し、後者三つの競技は米国を中心に発展してきたスポーツです。
(ゲームの過程を重視するために導入されたオフサイド・ルール) さて、本書の結論ですが、英国で生まれたとされるフットボールの由来や、それがサッカーとラグビーに分化した経緯、そしてオフサイド・ルールの起源についても、現段階ではっきりと分かっているわけではないそうです。ただ、これらの歴史を子細に追っていくなかで著書が得た仮説は非常に興味深いものでした。 英国で中世以降に行われていたフットボールは地域の「祭り」としての性質を強く持っており、ゲームの勝敗よりもその過程をなるべく長く楽しむことに主眼を置かれていました。「祭り」としてのフットボールが「競技」に転化したのは18世紀半ばから19世紀半ばにかけての頃らしいのですが、この間、『「勝利志向的な、したがって競技を早く終了させる、行為」は、フットボールの醍醐味を破壊する「汚い」プレーとして指弾ないしは禁止されるように』(同書・解説より)なり、オフサイド・ルールが定着していったそうです。 ゲームの結果よりも過程を重んじるために、不自由なルールであるオフサイド・ルールが制定されたというのは、とても面白い視点だと思いました。
20世紀以降、なるべく得点が多く入るような華やかなスポーツを好むアメリカ人は、オフサイド・ルールの制約から解放された新たなルールのスポーツ(アメフト、バスケットボールなど)を開拓したようです。
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