Experiences in UK
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2005年01月24日(月) |
第76週 2005.1.17-24 労働党の大看板、ブレアとブラウン |
ロンドンも寒さが厳しくなってきました。北部では週末に雪がちらついたようです。
(労働党の大看板) 先日、パットニー・ブリッジの袂を車で通過した時、ビルの屋上に見慣れない巨大な看板が出現していることに気づきました。ピンク色の長方形の看板には、人目を引くデザインの文字で「LOWEST unemployment for 29 years」と大書されていました。隅っこには、赤いバラの花とともに小さくLaborと書かれています。 これは、先日公表されたばかりの労働党の広報ポスターであり、「失業率が29年ぶりの低水準」と経済好調の実績をアピールしたものでした。同党は、11日に同様の四種類の広報ポスターを公表しました。いずれも現在の英国経済の好調ぶりを全面的にアピールするもので、それぞれ昔のビートルズのアルバム・ジャケットのような懐かしい感じの字体・背景の中にメッセージが溶かし込まれたデザインになっています(実際のポスターは、ココを参照)。
上記の失業率に関するものの他には、「過去200年間で最長の持続的経済成長」「住宅金利が40年ぶりの低水準」「インフレが60年代以来の低水準」というメッセージが刷り込まれたポスターがあります。具体的な数字を用いて、誰にでも分かる形で経済の好調振りを切り取り、伝えようとして作られたものであることが一目瞭然です。 今回の露骨なまでに経済好調を誇示したポスター作成の背景には、今年五月頃の実施が予想されている総選挙に向けたアピールという事情もあります。
(経済は争点とならないが・・・) 政党がポスターで掲げるスローガン(広報文句)に対して大真面目に反論するのはアホらしいというか、あまり建設的ではありませんが、メディアでは露骨な自画自賛振りを揶揄する記事がちらほら見られました。例えば、エコノミスト誌はBoasters(ほら吹き)という題名の小さなコラムで、各スローガンを個別撃破しています。 ただ、90年代後半以降の英国経済が、稀有の安定成長を持続してきたことは紛れもない事実です。それがすべて97年以降の労働党政権の政策運営によるものかどうかは議論の分かれるところですが、経済問題が春の総選挙で争点になる可能性は低いとみられています。
(労働党・大看板の亀裂) というわけで、実際により注目を集めたのは、ポスターの中身よりも、その発表の光景でした。四枚のポスターを背景に、ゴードン・ブラウン蔵相とアラン・ミルバーン無任所大臣(ランカスター領大臣)、ジョン・プレスコット副首相が並んで写真撮影に臨んだことがメディアで大きく取り上げられていました。 一見すると、労働党の有力閣僚が党の実績を誇示する微笑ましい写真のように思えますが、実は現在の労働党は大きく二つの勢力に分裂しており、一部には深刻な対立の構図があると伝えられていることから、様々な憶測を呼びました。二つの勢力とは、ブレア首相を中心とする一派とブラウン蔵相を中心とする一派で、上記の三閣僚のうちミルバーン氏というのは、ブレア首相の懐刀でありかつ首相後継候補としてブラウン蔵相にとって強力なライバルと目されている人物です。 労働党の「大看板」であるブレアとブラウンの間には深い亀裂が走っているというのが定説となっているため、ブラウンとミルバーンが仲良く一枚の写真に収まっている様子は、選挙を前にした労働党の結束振りを示すポーズであるなどとささやかれていました。
(ブレアとブラウン) ブレアとブラウンという戦後の英国政治における際立った大物政治家どうしのライバル関係は、実に興味深いものがあります。両者は同じ年(83年)に初当選した後、いずれも労働党・改革派の若手エースとして台頭しました(生年は、ブレアが53年、ブラウンが51年)。言動や見かけが派手でスタンドプレー好みのブレアに対し、地味で堅実なブラウンという好対照のキャラクターの二人は、過去20年間の労働党躍進と97年以降は英国の建て直しにおいて重要な牽引役を果たしてきました。 当初は、政治経験で一日の長があったブラウンがブレアに政治の手ほどきをする間柄にあったようです。94年のスミス労働党党首急死の際、両者の話し合いのうえでリーダーシップという点で勝るブレアが党首の座を引き継ぎ、97年に首相に就任したときから、両者の関係に微妙な緊張が生じてきたとされます。
両者のライバル関係ストーリーも、今では周辺の次世代有力政治家を巻き込んだ大きなものになっています。その代表的人物の一人が、上記のアラン・ミルバーンであり、また昨夏に欧州委員会の通商担当委員に抜擢されたピーター・マンデルソンです。マンデルソンはブレア首相の側近中の側近と考えられ(初期ブレア政権で広報戦略担当=スピン・ドクターとして活躍)、かつ英国政界の曲者として数々の逸話を残している個性的な政治家です。ブラウン蔵相とは、犬猿の仲というのが一般的な見方となっています。 いずれにしろ、今春に予想されている選挙を境にして、両巨頭のライバル関係に何らかの変化が生じる可能性が高く、一野次馬としては、首相の後継問題を含めて次の展開が大いに興味を引くところです。
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