Experiences in UK
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2004年10月04日(月) |
第60週 2004.9.27-10.4 外国人に日本を説明する困難、流暢な日本語を操る英国紳士 |
イチローの大リーグ記録更新は、日本と米国では大ニュースになっていると思いますが、こちら英国では残念ながら全くと言っていいほど報道されていません。BBCのウェッブ・サイトでイチローのニュースを見るためには、SPORTの中のUS SPORTというセクションに入らないといけません。
(外国人に日本を説明する困難) 外国人に日本のことを説明するのは難しい、とはよく言われます。英国人と話す際にこれを実感することがしばしばあります。英語力の貧困さと日本に関する説明能力不足が相俟って、じぐじたる思いをした経験は数限りありません。例えば、日本人にとっての宗教とか日本と西洋文化の関係の問題を論じる時、必ず袋小路に迷い込んでしまいます。
前者は、宗教が社会や個人の中心にしっかりと根付いている英国人にとって、「自分も含めて多くの日本人は無宗教です」とか「日本といえば仏教というイメージがあるかもしれないが、仏教を『信仰』している日本人はほとんどいない」とかの説明をただちに理解してもらうことを期待するのは絶望的に難しい話です。さらに、「実は日本人の行動原理には、儒教が大きな影響を与えているという見方がある」なんて説明をしてしまうと、即座に「儒教とは何か?」と返され、ざっと説明すると「それで、どんな神を信仰している宗教なのか?」「神のようなものはいない」「それは宗教ではないのでは?」という展開になり、話は余計にややこしくなります。
(「明治維新」の意味) 日本と西洋文化の関係を説明するのもかなりの難題です。 先日、英国人に対して日本が西洋化に走る歴史的経緯を話す中で、明治維新(the Meiji Restorationと訳される)に言及する機会がありました。明治維新というのは、a kind of bloodless revolutionであり、約300年間にわたって鎖国政策を続けてきた政権が転覆して、明治維新を境に西欧の文物が日本にいっせいに流入してきたというような説明をしたところ、「だいたいわかった。けど何で”Restoration”って言うのかが分からない」と切り返されました。なぜRovolutionと言わずに、回復とか修復という意味のRestorationを用いるのかと。 恥ずかしながら、その時は「う〜ん」と黙ってしまいました。もちろん、答えは王政復古(大政奉還)にあるわけですが、それに気づいたのは後日のことでした。よくわかっているつもりの日本のことでも、意外な角度から問い返されるとたちどころに答えに窮してしまうことがおうおうにしてあり、実に情けないものです。 さらに、我々が英国の歴史についてある程度の知識を持っているのに対し、英国人は日本の歴史など全くと言っていいほど知らないという知識の非対称性もこういう時に実感します。
(流暢な日本語を操る英国紳士) 英国人の日本の歴史への理解度は全体的に必ずしも高くないと思いますが、現在の日本に対する関心度については、かなり高いことを感じます。例えば、最近の英国では日本食が大変な人気を呼んでいますし(持続的なブームといった状態です)、日本の映画などもしばしば好意的に紹介されています(「千と千尋の神隠し」はFT紙の映画レビューで、破格の六つ星評価がなされていました)。 このような日本に対する関心の高まりを反映して、日本語を学ぶ英国人もかなり増えているようです。背景には、以前に書いたことがありましたが、日本政府が進めているJETプログラム(期間限定の英語教師として、毎年500名以上の英国人を日本全国の学校に派遣する制度)の影響も確実にあるのでしょう(03年11月17日、参照)。
先日、バスの中でちょっとびっくりしたことがありました。 私はいすに座っていたのですが、ある停留所で50〜60才くらいの日本人のおばさん二人が乗り込んできました。あいにく席が空いておらず、二人はちょうど私の横辺りで立ったまま話を始めました。すると、斜め前に座っていた30才代後半くらいの英国人男性が、後ろを振り返るなりすっと立ち上がって、「もし良かったら、座ってください」と見事なイントネーションの日本語で彼女たちに声をかけたのです。予想外の状況に出くわした時の驚いた表情を「鳩が豆鉄砲を食らったような」と表現することがありますが、その光景を目の当たりにした私はまさにそんな顔をしてその英国人男性を見ていたと思います。 流暢な日本語にも驚きましたが、「もし良かったら」という丁寧な表現にも恐れ入りました。こんな風に席を譲る人は、日本にそんなにいないでしょう。改めて、日本語はこういう風に使うべしと学ばされる思いでした。
ただし、見事な日本語に驚いた数秒後には、同じ日本人でありしかもより近くにいるくせに高齢の女性に席を譲らなかったことで、気まずい思いがこみ上げてきました。しかし、言い訳をすると、同じ日本人だからこそ、席を譲るのがなにかためらわれるという心理が働いていたのは事実であり、また同じ日本人だからこそ二人の会話の様子から、席を譲る必要がないくらい心身共に元気なおばさんであると判断されたということもあります。実際、おばさんたちは、ろくにお礼も言わずに、さっさと座って高価な買い物の話を賑やかに再開し始めました。今度は同じ日本人として少し恥ずかしい思いをしました。 ちなみに、自分の名誉のために付け加えておくと、英国人のご老人に対して席を譲った経験は何度かあります。ただし、かの英国人男性の日本語のような立派な英語は使えませんでしたが。
というわけで、英国を旅行される際は、日本語だと周囲がわからないと思って大声で下品な事を喋ったり、英国の悪口を言ったりしない方が賢明です。
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