Experiences in UK
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2004年05月31日(月) |
第42週 2004.5.24-31 NHS、産前学級 |
(NHS) 英国では、NHS(National Health Service)という公的医療制度を使う限り、医療費が完全に無料です(国が全額を負担)。ただし、NHSを利用して診察を受けるのはけっこう面倒です。 まず、地域の町医者(General Practitioner,GP)に登録してもらう必要があります。登録してもらえるGPを探し出すのに一苦労で、さらに登録してもらうには実際にその病院まで足を運んで面接を受けねばなりません。 GPで診察を受けるのは原則として予約制です。日本の歯医者のように、電話をしたら「それでは、今日の三時に来てください」とならないところが厄介で、しばしば「では、来週水曜の三時に来てください」という調子です(救急医療は別ですが)。熱が出ていても一週間も経ったらふつうは下がっているものです(英国人はちょっと熱が出たくらいで病院に行かないらしい)。 GPは町医者なので、高度または専門的な医療行為はできません。このため、単なる風邪でない場合は、改めて専門医にかかる必要があるのですが、NHSのシステムを使う場合、専門医にかかるためにはGPの紹介状が必須です。このため、とにもかくにも一度GPに行く必要があるのです。ただし、紹介状を書いてもらったとしても、専門医に診てもらうまで再び長い時間を待たされるという話をよく聞きます。 さらに、経済原理から考えて当然のことながら、NHSで提供される医療サービスの質は、GPも専門医も必要最低限をクリアできていれば良しとする程度のようです(医者個々人の技量は別問題なのでしょうが)。 というわけで、うちの家族では妻と息子だけがGPに登録しており、日本にいた頃から滅多に病院に行かない私は今も未登録のままです。
このように煩わしく問題含みであるNHSのシステムを使わずにプライベート(私的医療制度)の病院で医療行為を受けることも可能です。プライベートの病院では、一般的に手厚くて信頼できる医療サービスを受けることができますが、もちろん有料でしかも高額になります(個人が全額を負担。このため、多くの人は民間の医療保険に加入している)。 うちの家族は三人三様です。病気などの際に妻はGPでの受診で済ませ、息子の場合は日本人の医者がいるプライベートの病院に行っています。私は病院のお世話になったことがありません。
(NHSでの出産) 色々と問題はあるものの、ちょっとした病気であればGPで診てもらうのが費用もかからずいいのですが、出産に関しては、とくに日本人の間ではプライベートの病院を選択する人が多いようです。 うちは六月の終わりに第二子が生まれる予定なのですが、多くの方から「絶対にプライベートで産むべし」とのアドバイスを頂いておきながら、妻のたっての希望によりNHSでの出産を選択しました。この国の普通のシステムで産んでみたかったという理由のようです。 妊娠が分かってからこれまでおよそ8か月、検診等でNHSの病院に通っていたわけですが、日本での経験と比べた場合の違いはあげていけば切りがありません。エコーの撮影は初期のたった1回きりだったので、出産を目前にひかえた今も「逆子」がどうかよく分かりません(いちおう触診で判定してくれているそうですが)。検診の回数自体が日本の時の半分程度で、その中身も問診が中心の著しく簡素なものだったようです。 幸いにもこれまでのところ順調にきているので、今は一ヶ月後に無事に出産が済んでくれることを祈るばかりです。NHSの場合、出産後は1〜2日で退院させられるそうなのですが、その後に担当のミッドワイフ=助産婦がアフター・ケアのため自宅まで訪ねてきてくれるとのことです。
(産前学級1) 日本と同様にこちらでも産前学級があります。今回、妻は地域の自治体が主催している有料のもの(第二子出産専用クラス)とNHSが主催している無料のもの(第一子出産向けクラス)の両方を受講してきました。 それぞれに一度ずつ私も参加することになりました。日本で第一子を産んだ時に両親学級に行く機会がなかったので、この手のクラスに参加するのは私にとって初めての経験でした。 最初に出席したのが第二子出産向けの有料コースの方です。3月頃にあったのですが、6回のうち1回は父親同伴が必要ということになっていました。平日の午後8時スタートの2時間コースということで、仕事を終えてから出かけるのは少し気が重かったのですが、妻におしりを叩かれて参加することになりました。公民館のようなところで時々船をこぎながらビデオでも見ていればいいのだろうとたかをくくっていたのですが、これが全くの見込み違いでした。 参加者は6家族で、会場は閉館後の図書館の一隅でした。ずいぶんこぢんまりとしているなあと、想像していたものとかなり違う様を見て、この時点でちょっと嫌な予感はしました。 定刻を過ぎると、その辺から自分たちで椅子をかき集めてきて、講師の分と合わせて13個の椅子で全員が車座に座ります。何が始まるのかと思いきや、講師のおばさんに促されて、まずは自己紹介代わりに「あなたにとって子供の誕生とは何ですか?」というお題に一人ずつ答えさせられ、それぞれの回答をめぐって簡単なディスカッションをします。 次に、「出産時に男がすべきこと/男にして欲しいこと」というテーマで、男性チームと女性チームに分かれてそれぞれでディスカッションし、紙にマジックで書き上げた各チームの回答について、全員でディスカッションをするという企画がありました。この後、主に様々なバース・プランに関する講師のお話があって、マッサージ法の実践講習などがあり、またまたフリー・ディスカッションをして終了です。 アット・ホームでいい雰囲気のクラスだったとは思いますが、その分英語がままならない身にとってはなかなかの苦行です。学校の授業のような受け身の姿勢で臨んでいたので、予想に反して濃密な英語のディスカッションをさせられることになり(私はほとんど参加できませんでしたが)、終了後はぐったりしてしまいました。
(産前学級2) 先日、私にとって二回目の産前学級に行ってきました。NHSの方のクラスで、こちらは4回全てが、父親同伴が可能なように7時45分スタートで設定されています(2時間コース)。初産の人向けなので、本当は我が家は行く必要がないのですが、外国での出産は初めてであり、かつ無料なので妻は受講することにしていました。私は前回で懲りたこともあり、当初、今回の産前学級は行かない方針を宣言していました。 ところが。ある日のGPでの定期検診の際、妻が看護婦に1人で産前学級に行っているという話をしたところ、「なんで父親は行かないのか」とこっぴどく叱られたらしいのです(うちのGPの看護婦はえらく権柄ずくな人らしく、以前に妻が検診の予約時刻に15分遅れてしまった際にもえらく叱られたうえに、その日の受診をキャンセルさせられたらしい)。実際に、クラスの参加者はほとんどが二人で来ているらしく、受講ついでに事前に病院を見ておくことも有意義だし、等々の説得を受けて、結局、最終回だけ私も行く羽目になってしまいました。 今回のクラスは、基本的にビデオを見て話を聞いていればよかったので、さほど辛い目にも酷い目にもあいませんでした。受講者はわずか4家族だったのですが、有料コースの時とは違って必ずしも裕福ではない庶民といった感じの人たちで、活発に質問などをして熱心にクラスに参加していました。ビデオや講義の中身は知っている話ばかりで、父親が赤ん坊の人形におむつを装着する実践練習の時には、ダントツに見事な出来映えで講師の先生からお褒めの言葉まで頂戴しました。 それにしても感心したのは、講師の女性の熱心な教えぶりです。はじめてパパ・ママになる人には役に立つ話ばかりで、具体的な話からメンタルな話まで、所定の時間を大幅に過ぎても延々と熱く語っていました。イギリス社会の底辺を支える大事な仕事を誠意をもってされているのだなあ、と変なところに感動して、この日は安らかな気分で家路につくことができました。
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