Experiences in UK
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2004年05月10日(月) |
第38-39週 2004.4.26-5.10 コッツウォルズ、カニザロ・ハウス |
(コッツウォルズ Cotswolds) 今週、ゴールデン・ウィークにあわせて日本から訪ねてくれた友人家族といっしょに、コッツウォルズ地方への2泊3日の旅行に出かけました。 コッツウォルズ地方は、ロンドンからまっすぐ西に約150キロの観光地バース近辺を南端として、北に向けて100キロ程度の大きな楕円状に広がる丘陵地帯を指します。「世界でいちばん美しい村々」(某ガイドブック)とか「イングランドの真のカントリーサイド」(コッツウォルド地方議会作成観光パンフレット)とかのキャッチフレーズがしばしば冠されるような、そんな場所です。日本人をはじめとした世界中の観光客に人気が高い英国屈指の観光地といえましょう(といっても単なる田舎なのですが)。 この地方に共通する特徴として、地元で採れるライムストーン(石灰岩)でできた蜂蜜色の家並みと、かつて同地方で隆盛をきわめた羊毛取引が残した歴史的な遺産の二つがあげられます(上記観光パンフレットより)。古い英語で「羊のいる丘」という意味の「コッツウォルド」地方は、14〜15世紀に羊毛業で大いに栄えました。それが故に18世紀以降の工業化(産業革命)の波にさらされず(or乗り切れず)、古い建造物や街並みが現在まで保存されてきたとのことです。 今回、我々が訪れたのはコッツウォルズの南部と中部です。
(南コッツウォルズ) 南コッツウォルズでは、レイコックLacock、カッスル・クームCastle Combeなどの町を訪れました。 レイコックは、13世紀に造られたレイコック寺院(16世紀のヘンリー8世による修道院解体令以降は私邸となった)を中心とした小さな村で、村ごとナショナル・トラストの管理下にあります。すべての住民は、ナショナル・トラストと契約を交わした上で生活しており、勝手に住居の増改築などができないそうです。といったわけで、「時が止まってしまったような、中世の面影をまるごと残した村」(横川節子「ナショナル・トラストを旅する」千早書房)などといわれています。 ハリー・ポッターの映画のロケ地にもなったレイコック寺院内をゆっくりと見て回って出てきたのが午後三時前だったのですが、村のハイストリートはひっそりとしており、たった一軒しかないパブ・レストランは残念ながらランチタイムを過ぎて閉店していました。
(中部コッツウォルズ) コッツウォルズでは、ガイドブックに載っている主要な観光地から少し外れた脇道に入るとさらに魅力的な風景に遭遇することができると言われています。翌日、中部コッツウォルズの主要観光スポットであるバイベリーBiburyでゆっくりと昼食をとった後に、道路地図にいちばん細い線で記載されている「脇道コース」を車で通ってみたところ、その言葉の正しさを実感することができました。 基本的には、蜂蜜色の石造りの家並みがあり、なだらかにうねる草地が広がり、牛、馬、羊などがいるというだけなのですが、それ以上の景観に不釣り合いな夾雑物が全くなくて、広すぎず狭すぎない空間にこれらが配置されていると、「見事!」とうなりたくなるような風景ができあがります。なお、本来は自分の足で歩いて見て回るのがコッツウォルズ観光のあるべき姿であり、コッツウォルズ内に多数設けられているフット・パスの解説書まであるくらいなのですが、今回我々は小さな子供連れであることなどから車で回りました。
コッツウォルズは、とりたてて何があるというわけでもないのですが、その何千平方キロの域内のどこをかじってみても、自然と歴史を体感できるそれぞれの味が楽しめるような場所だと思いました。点ではなくて面で味わう観光地ということで、そもそもカントリーサイドの観光とはそういうものなのでしょう。 ただし、ここでひとつ注記すべきは、上のように書くとコッツウォルズは「ありのままの自然」が残されている場所という印象を与えるかもしれませんが、そうではありません。ナショナル・トラストのプロパティでなくても、豊かな自然環境や古い建造物を維持・保存すべく人の手が加えられていることが間近で観察するとよくわかります。決して「ありのまま」ということではなく、そこには人の意志が介在しているのです。 コッツウォルズにいると、奈良の「山の辺の道」などが想起されてきます。しかし、「山の辺の道」にも今はところどころにローソンがあったりするのでしょうし、本質的なところが何か違う気もします。何が違い、なぜ違うのでしょうか。
(パプ併設のB&B) 宿は、コッツウォルズ南端の小さな町Grittletonにあるパブに併設されたB&B、Neeld Armsに取りました。今回はパブ併設のB&Bを試してみたかったので、この条件にトップ・プライオリティを置き、あとはパブの評判とロケーション、children wellcomeか否か(家族連れの場合、英国ではこの条件は必須)などの条件で絞り込みました。 パブNeeld Armsは、フリー・ハウスと呼ばれる形態の個人経営パブです。 現代のほとんどの英国パブはビール会社ないしはパブ・グループなどの系列店になっており、経営の安定と引き替えに売るビールの銘柄などが属する系列によって制限されてしまっています。これに対してフリー・ハウスの場合は、ビールの銘柄を経営者が独自に決めることができます。供給過剰で多くのパブが経営難になっているなか、現在ではフリー・ハウスは全体の一割程度しかないとのことです。フリー・ハウスは、ビールの銘柄選定や品質管理にこだわった店が多いとされています。
Neeld Armsは小さな町に一軒しかない人気パブで、平日にもかかわらず夕方の開店時刻の6時を過ぎると、瞬く間に店内は人でいっぱいになっていました。カウンターでは、だみ声の店主とおやじを中心とした客がいかにも気の置けない仲といった感じの会話を楽しんでいました。 カウンターにずらりと並んでビールと会話を楽しんでいるおやじたちの間を縫って、店主にお薦めビールを尋ねてみたところ、店主とそして私の隣に立っていた髭もじゃのおやじ(客)が、共にコーニッシュという名のビールを推奨しました。ポンプの銘柄表示を見ると、その名の通りコーンウォール地方(Cornish)のビールと表記されており、さらに小さな文字でカスク・エールと書かれていました。カスク・エールというのは、パブにある樽(カスク)内で熟成されたエール・ビール(英国のビール=ビター)のことで、パブのマスターが飲み頃と判断した時点でポンプを通して客に供されるビールのことを言います。2泊の間に、本当においしいこのコーニッシュ・ビールを10パイントほど飲んだように思います。 伝統的な英国料理の夕食とおいしいビールを好きなだけ飲んで閉店間際までパブでゆっくりできるパブ併設B&Bは、このうえない旅の宿と言えましょう。 なお、ガイドブックにはいっさい名前が出ていないGrittletonという町も、やはりライムストーンの古い家並みが続くきれいな町でした(Neeld Armsにもライムストーンが使われています)。ところで、パブの塀の上に発見した孔雀が羽根を広げて隣接する教会のてっぺんまで飛んでいく様を見たのですが、野生の孔雀というのはこんなところにいるものなのでしょうか。
(カニザロ・ハウス) コッツウォルズからロンドンに戻って、当家から車で10分程度の場所にあるホテルでアフタヌーン・ティを初体験しました。 ウィンブルドン地区に住む多くの日本人駐在員が英国を離任する際、最後の記念として宿泊していくという噂のホテルがウィンブルドン・コモンの中にあります。カニザロ・ハウスという名のそのホテルは、かつてお金持ちが所有した大邸宅をホテルに改装したものです。 英国のアフタヌーン・ティについては、様々な場所で解説されていると思いますが、一定の形式に則ってお菓子やらサンドイッチをつまみながらお茶を飲むというものです。個人的な感想としては、茶を飲むぐらいのことで別にホテルまで出向かなくてもいいと思うし、ゴテゴテとした大袈裟なお菓子を食べなくてもいいとも思いましたが、それは男性の視点なのでしょう。
印象的だったのは、カニザロ・ハウスの庭でした。建物に面して野球場が5〜6個は入りそうな広大な庭があり(実際には「庭」という言葉で表現するのは不適切ですが・・・)、さっさとお茶を終えた私はほとんどの時間をこの庭で過ごしました。 向こうの端の人が小さな点に見えるくらいの広い芝生の周囲を森が囲んでいます。森の中には、幾つものイングリッシュ・ガーデンや池があり、全て見て回るとしたら大人の足でも半日かかるような広さでした。イギリスの小説を読んでいると、上流階級のお金持ちが敷地内の散歩に出かけると言って数時間を過ごす場面がしばしばありますが、こういうことかと納得することができました。 こういう場所に十数ポンドのお茶代を払って入り込むことができると思うと、ホテルのアフタヌーン・ティもバカにできないものです。
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