Experiences in UK
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2004年04月26日(月) 第37週 2004.4.19-26 イギリス人のアイデンティティ、St.George’s day

ロンドンもかなり暖かくなってきて、このところ最高気温が20度を超える日も時々あります。

(東京のプレッシャー)
ロンドンには沢山の日本人がいます。ロンドンに住む在留邦人の数は二万人以上にのぼり、観光・語学留学等の短期滞在者を含めると、三〜四万人近い数の日本人がいるかもしれません。
ロンドンにいる日本人を街で眺めていて不思議に思うことの一つに、多様な方言が話されているということがあります。東京で街を歩いている時に聞こえてくる方言は、ほとんど関西弁に限られました。私を含めた多くの関西人は東京でも変わらず関西弁を使用することが多いのですが、なぜか(また、残念ながら)他の方言はほとんど耳にしませんでした。しかし、ロンドンでみかける日本人の会話に耳を傾けていると、実に様々な方言が聞こえてきます。
そんな情景を見ていると、日本では「東京」への憧憬とその裏返しにあるプレッシャー(「東京」志向の高さ)というのがすごいのだろうなと想像してしまいます。

(イギリス人のアイデンティティ)
ロンドンで公共交通機関に乗っていると、多様な日本語とともに多様な英語と様々な国の言葉が聞こえてきます。観光や仕事で集まる外国人も非常に多いのですが、かつて世界中に存在した大英帝国・旧植民地からの移民が「〜系イギリス人」としてロンドンとその周辺で多数生活しており、それがロンドンにおける言葉のヴァリエーションをさらに豊かなものにしています。
そういうわけで、ロンドンでは人種(見かけ)からロンドナーであるか否かを判断することは不可能であり、誰もそんな発想は持っていません。渡英前にしばしば聞かされ、実際に自身で一度や二度ならず体験したのが、道行くイギリス人と思しき人から躊躇なく道などを尋ねられるケースです。こっちは「来たばかりの外国人(アジア人)に聞くなよ」と思うのですが、ロンドンにおいて人種というのは、道を尋ねる人を絞り込む際にほとんど意味のない条件になっているようです。
あるいはこうも言えるのでしょうか。ロンドンには、外国から訪れるツーリストはいても、人種的な意味での「外国人」は存在しない。「外国人」が存在しないのであれば、「内国人(自国民)」という概念も存在しないわけで、かれらの民族としてのアイデンティティは一体どうなっているのか、ということになります。
先日、興味深いアンケート結果を目にする機会がありました。少し古いのですが、「あなたが最も一体感を感じるのは次のどれですか?」(複数回答可)という質問に対する地区ごとの回答分布で、結果は以下のようになっていました(%)。
                  ロンドン その他イングランド  スコットランド   ウェールズ
地元共同体            33       44         39         32
地域管轄区            43      <49>        62         50
イングランド、スコットランド、ウェールズ  42       41        <72>       <81>
英国(Britain)           <50>      42         18          27
欧州                 21       16         11         16
Source: MORI/The Economist
Base: 923 British adults, 24-27 September 1999

「地元共同体」とは日本でいう市町村であり、「地域管轄区」とは県に相当すると考えられます。括弧を付けたのは各地区で最も回答比率が高かった項目です。
一見して分かるとおり、「英国」への回答率がもっとも高かったのはロンドンのみで、それでもわずか半数です。スコットランドやウェールズに至っては、「英国」と回答した人は2〜3割に過ぎません。かれらにとっての国家とは、やはり圧倒的に「スコットランド」であり「ウェールズ」であるということがアンケート結果に如実に表れています。このアンケートによると、「英国」という国は、辛うじてロンドンにのみ存在している、ということになります。
また、そのロンドンないしはイングランドに共通する特徴として、いずれの項目も半数以下の回答率にとどまっており、回答が各項目に分散している傾向が読み取れます。彼らのアイデンティティ形成において、やはり地理的・政治的な境界線の持つ意味はかなり低いようです。
ところで、「欧州」という項目は、いずれの地区でも1〜2割の低回答率にとどまっています。一般に日本では「英国は欧州の主要国の一つ」と認識されていますが、彼らイギリス人にとって欧州というのは別の世界のようです。実際に彼らは「休暇を取って欧州に出かけてくる」と言うのです。

(St.George’s day)
4月23日は、St.George’s Dayでした。聖ジョージは、以前にご紹介したとおり、イングランドの守護聖人で、イングランドにキリスト教を伝えて殉教した人のようです。
英国内の他の三つの国ではそれぞれの守護聖人の日が祝日になり、盛大にお祭り等を行うのに対して、イングランドにおいてだけは祝日にもならず、さほど認知もされていない何の変哲もない日です。私が聞いた何人かのイギリス人は、そもそも聖ジョージって何者?といった反応でした。上のアンケート結果にも表れているとおり、イングランド人としての一体感というのは、他と比べるとかなり希薄なものということが背景にあるのでしょう。
ただし、例外はパブです。ロンドンのほとんどのパブは、St.George’s dayにちなんで白地に赤十字のイングランド国旗を飾り立て、ビールのディスカウント・サービスをしていたようです。私はこの日は早々に帰途についたのですが、バスから街を眺めていると、ほとんどのパブの前ではビール片手に人々がたむろして盛り上がっていました。ただし、さすがにこの日のアイリッシュ・パブはひっそりしていましたが。


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