迷宮ロジック
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ムジナ


2002年02月07日(木) ムジナ 第15章 不調


「まず第一に、…」

といったところで黒じいさんはふいにつまった。
なんだかすこし動揺しているようだ。

「ええと、そちらの初対面のお嬢さんの名前は?」
「…神崎美里ですけど」
「美里さんか…。いい名前だな。その格好もなかなか良いな。こちらは見た目どおり黒。青。赤だ。私は黒じいさんと呼ばれているがね。まあ好きなように呼んでくれ」

「さて最初の課題だが…」
とうとう来たか。私は少し身構えた。

「上手い嘘のつき方とはなにか」
…え。なんですと。

「各自5分以内で考えること。わしのお湯が5分後に沸くから、その時答えてくれ。以上。」
そういうと、黒じいさんは沈黙した。

そういえば、黒じいさんは蒸気を上げてなかったなあ。
ということは湯沸し待機状態だったのか。
あ、もしかしてやかんたちが乗っているのは電気で沸かせるタイプの、なんだっけあれは…。

い、いやそうじゃなくて。
あせって二人を見てみるとルリはゆうちゃんを肩から降ろして抱きしめたままじっとしているし。シュンは座り込んでじっとやかんの方を見つめている。
ど、どうしようか。

「え、えっとシュン。」
「どうした神崎?」
「毎回こんな問題なわけ?何なの一体」
「まあ、毎回問題は違うけど。大体こんなものだね」
「こんなのに正解があるわけ?私この問題無理かも。嘘なんてまともについたことないし。大体嘘つくのって嫌いなのに」
「ふうん。それはなんというか」

シュンはじっとこちらを見つめた。
「神埼って幸せな人生を送ってきたんだね」

「なによそれ…」
ちょっと絶句してしまった。
「いや、ごめん。嫌味をいったつもりじゃないんだが」
それはいったいどういう意味さ。君は何を体験してきたんだね。
逆に訊きたかったけど。
シュンの顔はなんだか寂しげに見えてそれ以上追求ができなかった。

「そうだね。これは正解というより、向こうの気に入る回答が出るかどうかだし。
三人のうち誰かがそういう答えが出せればいいってこと。」
そういうと、頭をぽんとたたいた。
「あいた。」
「はは、強すぎたかな。ごめん」
でもたぶんこれは。
とシュンは私の顔を見ずに続けた。

「俺の為の質問だと思う。
だから神崎が気に病む必要はない。思った通りをいえばいい」
それは。いったい?


訊きたかったけど、黒じいさんの湯が沸く音がした。
時間が来てしまったのだ。
まだ、なにも考えていなかったのに…。
というかシュンの考える邪魔をしたかも。
最悪…。


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月町夏野 |MAILHomePage

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