迷宮ロジック
DiaryINDEX|past|will
最初から読む
ムジナ
2002年02月06日(水) |
ムジナ 第14章 転調 |
「やあ。よく来たね」
慣れているらしいルリちゃんとシュンはやあとか、こんにちは〜とか気軽にこたえてたけど 私は思わず絶句しそうになった。
「あなたは、いったい…」 「見たとおりのものさ。君は初めてだね」 「…ええ」 やっとそれだけ答えた。
人間、あまりに予想を超えたものを見せられると、無口になるものらしい。
事実はシンプルだ。
中央には縦横直径それぞれ1メートルほどの円柱の台があり、上にはヤカンが三つ乗せられていた。 ほかになにもない。 どうやらつまり、やかんが喋ったらしい。
いかなる方法でかやかんたちは発声器官をもっているらしい。 (まあどこからかスピーカーを繋いでいるのかもしれないけど) あと違うところといえば3人ともふたの脇からカタツムリの角らしきものが生えているが、これは目の代わりなのかもしれない。
ほかは通常のやかんと変わりない。
それぞれ背中?をあわせるようにして置かれて(座って)いる。 (注ぎ)口からはしゅうしゅうと煙がたっている。 そのうち喋ったのは黒光りして表面がでこぼこした一番年季の入っているらしきヤカンらしい。
「短い間だろうがまあよろしくな」 そういいつつ上ふたをカタカタ鳴らしてみせたから。
なるほど、年季が入ってる分声にサビが来ているのも無理はないなあ。
いまさら驚くよりもなんか納得してしまったのはこの世界に慣れつつあるからかもしれない(ちょっと嫌だけど)。
「黒じいさん、なにいってるんですか」
どうやら一番若い(新しい)らしいアルミ製の青いヤカンがやや甲高い声で不満そうに言った。落ちつかないのか注ぎ口のふたをせわしなく開閉している。
「まだ俺達一門目の試練さえくぐっていない奴らにそんな気をつかうことないっすよ」
「まあまあ、青ちゃんも落ちつきなさいよ」となだめたのは、丸々とした形の赤いヤカンだった。 声にときどき笛のような音が混じるのは笛吹きケトルなのかもしれない。
「赤にいはそういうけどさ。締めるときは締めとかないと」 「だからって、かりかりするのはみっともないぞ。」
赤にいにたしなめられたせいか、青ちゃんヤカン(もうめんどうくさいから青ちゃんでいいや)は黙った。が まだ不満らしく、注ぎ口をかたかた言わせるのは止めていない。
「青ちゃんや。大事なことはそれではないだろう。まだ口上さえ述べてないんだからさ。そちらに集中しような」
「…すいません。」 黒じいさんのことばには青ちゃんは素直に反応し、部屋は不意に静かになった。
なにやらお湯が沸くような音がこぽこぽと響いているだけ…。
「それでは、皆様。時間を無駄にするのはよそう」
黒じいさんはややひびわれてはいるが、威厳のこもった声で続けた。
「まず第一に…」
|