MEMORY OF EVERYTHING
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2002年12月24日(火) |
I protect... |
「世界? 世界なんて護れないわ」
彼女はあまりにあっさりとそう言ったので、私は虚を突かれてしまった。 「そうなの?」 慌てて聞いて返す。 てっきり、彼女の力はこの地球という星を護る為にあるものだと思っていた。
星の輝く空の下、夜風に吹かれて立っている。 こうしていると、「ああ、私たちは今この世界に生きている」と思うのだ。 幾億もの星屑が星屑であるのと同じように、私たちの立つこの星も、宇宙から見ればまた、星屑のひとつに見えるのだろう。 見えないほどの遠いどこかで、知らない誰かがこうして誰かと向かい合っているのかもしれない。
彼女を見ていると、小さく狭かった視界があっという間に広がっていく。道端の草木から電柱を上り家の屋根を飛び越して、眼下の尾根ははるか遠く、海が大きな湖になる。そして地球は宇宙に浮かぶ、丸く小さな星になる。まるで創生神になったかのような心地で、自分を取り囲む世界を見る事ができるというのに。
彼女は頷いて、「そんな大それたこと・・・」と笑った。 「じゃあ何を?」 私は焦ったかのように聞き募る。
彼女は四方を囲むフェンスに近づいて、そっと金網に手を触れた。 そして私を見て、こともなく言ったのだ。 「ここよ」 「ここ?」 今は闇に沈んでいるけれども、昼間になれば多くの生徒たちの活気で賑わうくすんだ白壁の校舎。敷地の隅で音もなく佇むプール。並ぶ窓を見れば、シューズが床を擦れる音や、ボールの弾む音が聞こえてきそうな体育館。行き場のない閉塞感を感じながらも、ひとたび駆けてみればあまりの広さに目がくらみそうになる校庭。 金網を通して見える景色を、嫌というほど知っていた。
彼女は「ここ」を護るというのか。
この、私たちの「学園」を。
彼女はフェンスに背を預け、伸びをするように両腕を大きく斜め下に広げて金網を指で掴んだ。
彼女が次に口を開く前に、私は既に理解していたと思う。 この学園は、彼女の両腕の翼に護られていることを。
ここは――――――。
彼女は言った。 「私は『この世界』を護る」
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