-殻-
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この街で迎える二度目の冬。
冷たい風が運ぶ匂いにはまだ慣れない。 夕暮れの刹那、藍より深く乾いた空にきりきりと星が見える。 沈み損ねた紅が幽かな彩で山の端を縁取る。 誰かに見せたい景色は、あまりにも束の間で、 瞬く間に山の向こうへ滑り落ちていった。 君は、こんな色を見て何と言うだろう。 僕がそうであるように、隣に誰がいてもその存在を忘れてしまうだろうか。 僕らは灯りを持たず、 かと言ってはぐれぬように互いの手を取ることもなく、 それぞれの歩幅で、それぞれの想いで、 長い夜の季節を迎える。 僕には為す術がない。 君が見たい景色は、君だけのものなのだ。 僕の望む未来が、僕だけのものであるように。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |