-殻-
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朝、アラームがなる前に目が覚める。
君は隣で、気持ちよさそうに寝息を立てている。 僕が時計を見ようとして身体を捻ると、 君が目を覚ましてしまった。 「・・・何時?」 君が尋ねる。 「もうすぐ6時半だよ。」 今日は僕も遅くていいから、もう少し寝ていられる。 君は眠そうに軽く伸びをすると、 ふみゅ、と甘えたようなため息を一つついて、 僕の身体に擦り寄る。 最近、少しずつ君は、 そういう表情を僕に見せるようになってきた。 それを、幸せのひとつのかたちだと思ってもいいだろうか。 まだ、君が僕に求めるものが、 はっきりとわかっているわけじゃない。 それでも僕は君を選んで、 今ここにいる。 7時を過ぎて、ようやく身を起こす。 身支度をして、君が車で駅まで送ってくれる。 僕が駅の階段を登りかけて、ふと振り向くと、 君は窓越しに小さく手を振る。 僕も小さく手を振り返す。 いつまで続くのだろうか、 このささやかな日常は。 失くしたものとの重さを、つい比べている。 一人であることを知っている者どうしが、 これから作ろうとしている生活を思うと、 それが果てしない空虚の中に存在しているような気がする。 それとも、 幸せなどというものは、 所詮空虚の中に浮かぶ塵のようなものなのだろうか。 台風の過ぎた空は、どこまでも、どこまでも乾いた青。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |