-殻-
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「まさし(仮名)さんが結婚するらしい。で、俺らで何か余興をやらないかっていう話があるんだけど、一度集まろう。」
ある日こんなメールが携帯に届いた。 僕は昔、音楽をやっていた。 正確には今も続けている。 ただ、バンドっていう形態を取っていないだけだ。 大学で出会った、気の会う連中とバンドを組んだ。 バンドといっても、アコースティックギターが3本と3声のコーラス。 例えていうなら、CSNのような感じだ。 いっしょにライブをやった対バンの人が、僕らをとても気に入ってくれたようで、サークルのようなものを作った。 いろんな音楽性を持ったバンドをいくつか集め、その中でさらにメンバーを組み替えて新しいバンドを作ったり、ライブをしたりした。 しかし大学という場所は人の移り変わりが激しいところで、そんな楽しい時間はそれほど長くは続かない。 就職で街を離れる者、メンバー間のいざこざで遠ざかる者、研究の忙しさで参加でできなくなる者、いろいろあって少しずつ自然消滅していった。 僕のバンドもまた例に漏れず、ちょっとした諍いや意識の違い、忙しさから休止状態になってしまっていた。 それでもまだ、僕らの中には「その時間を確かに一緒に過ごした」という意識がある。それは揺らがない。でも、お互いに歩み寄る機会がなく、日々の生活の中に埋没していった。 そんな僕らの時間が動き出したのは、去年の3月だった。 僕以外の2人はH大の博士課程3年。 僕は研究の都合でK大に移っていた。 2人はA県に就職することが決まっていた。 同じ県内でも一方はT市、一方はH市なので2時間くらいかかる。 僕は留学することが決まっていたので、しばらくは顔を合わせることもなくなるだろう、ということで、区切りに何かやらないかとT市に就職するYが言い出した。 そして僕らは、3年ぶりにライブをやることになる。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |