-殻-
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君は、こころで笑いながら僕にとどめを刺した。
結局のところ君は、自分が寄りかかるために僕を立ち直らせてくれていた。 あなたがしゃんとしていないと、私が寄りかかるところがないじゃないの。 僕が君を支えるために、どれだけ自分を磨り減らしていたか君にわかるかい? それがつらくてつらくて、一人で涙を流していたのを知っているのかい? 必要がないのなら、そう言って冷たく突き放せば良かったのに。 君の安寧は、僕が君を必要としていることによってのみ存在していた。 だからこそ、僕を飼い殺しにしていたんだろう? 君は自分の場所を一人で見つけて、それから僕に別れを告げた。 ただ言い訳を探すように、何でもないひとことを致命傷に仕立てた。 あなたのやり方で私をつなぎ止められると思ってたの? あなたは私をわかってないわ。 だから一緒にはいられない。 それに私には、もう次の場所があるの。 ごめんなさい、私は待てなかったわ。 あなたを待てなかった。 そう言って君は涙を零して、自分の罪悪感も一緒に洗い流した。 あなたは悪くないわ、ただ私が待てなかったのよ。 さっきは僕のせいだと言っておきながら。 そうやって僕の気持ちを宙ぶらりんにしたまま、君は去った。 僕はただ、 僕が君にそうしたように、 何も聞かずに、僕を抱きしめて、 大丈夫だよって言って欲しかったんだ。 なんの根拠もなくても、 私がいるから、ずっとそばにいるから大丈夫だよって。 約束と理由なんてものが、君にはそんなに大事だったなんて。 そんなことは一度も言わなかったじゃない。 言葉にしないと伝わらないことがいっぱいあるわ。 君はいつもそう僕に言っていたじゃない。 僕はむしろ呆気に取られて、君を見送るだけで。 最後まで傷付いたフリを忘れない君を、見送るだけで。 君は、寒さから身を守るために厚いコートが欲しかったんだ。 ほつれた糸を繕いながら、君は僕に隠れた。 春を見つけた君に、必要のない僕は脱ぎ捨てられる。 僕は精一杯君を包んでいるつもりだったけど、 そうだよね、所詮コートは着る人を選べない。 季節が変わるように、君が移ろっただけ。 想いとか、誇りとか、痛みさえ君は僕から奪った。 僕は、抜け殻。 そこから奪える全てのものを奪って、君は去った。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |