「暗幕」日記
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創作：セーター
だから言ってやったのよ何であたしがあんたにセーター編んでやらなきゃいけないのよって。何か根本的に勘違いしてるんじゃないのあいつ。フィッシャーマンセーターが憧れなんですって買えば? そりゃあ履歴書の趣味欄に「編み物」って書いたのあたしだわよ。早いときは十日でセーター一枚編んだからって、何で月末のあいつの旅行に合わせてしつらえてやんなきゃならないのよ何考えてるんだか。
「材料費の他に手間賃もらいますね」っつったら「金とるのか」って鼻白んでたけど当然よね。だいたいあたしの時給いくらだと思ってんのよ、他所ではそんだけ稼げるところをわざわざそっちに労力振り向けてやるってことになるんだからさ。「だったらフリース買った方が安い」当たり前でしょ糸だって長く着ることを考えれば値段もそれなりにするし。それに日本じゃ人件費は高いのよ。言ってやりたかったわ心から。「あたしもその方が良いと思う。手編みは手入れが大変よ」どうせ季節ごとのお手入れなんか考えたこともないんでしょうけど。
それよりさ。あたしにとって編み物とかお針とかは趣味とかじゃなかった気が今頃してるの。服はシンプルで実用的なのが好みだってのもあったけど、デザインとか編みこみとか手間のかかること一切しなかったもんね。あたし本当は縫い物とか編み物は嫌いなんじゃないかって。あたしが好きなのは、めんどくさい作業が終わって服が一枚新調できること、それから買うよりはお金が倹約できて家計に貢献できたって事実だったんだわって。中高校生だったあたしは働きに出してもらえなくて手仕事覚えるまでは無駄メシ食い扱いだったけど、ちょっとは家の役に立ててるって実感できてそりゃあうれしかったわ。だからあいつの言い草に余計ツンケンしちゃったのかもね。セーター取られるはお金は入らないはじゃ善いことナシだもんね。…そうぉ？ しこしこ編んでる過程も楽しいの？ やだーあたし信じられないわー。
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