「暗幕」日記
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塩粒が風に吹き寄せられて積もった脆い柱は、闇の中で、大地を見渡すようにまっすぐ立っていた。その星では自転周期の関係で、一年と一日の区別はあまり意味がない。つまり公転周期の半分が昼、半分が夜という(地表全体が地球の両極のような)星だった。
その年に生まれた柱は光というものを知らなかった。先がすこし傾いたその姿は、夜明けを待っているようにも見えた。
夜が次第に薄くなる。はじめに黒っぽい青が生まれた。 黒一色だった世界は、色が滲み出した地平線の大気で空と大地に二分された。色の素、光の源は、地平線のすぐ下に来ている大星だ。 この星は光を出さない。光って見えるのは母星からの光を反射しているからだ。 そしてちっぽけなこの柱も、光を受けて輝くだろう。それは何色の光だろうか?
夜明け前のそのとき、誰も知ってはいなかった。母星から放射される有害な光線は、みるみるうちに塩粒を分解して蒸発させてしまうだろうことに。
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