女の世紀を旅する
DiaryINDEXpastwill


2011年09月14日(水) 世界経済に暗雲/欧州金融危機はリーマンショックより深刻(ソロス)

半年ぶり一時8500円を割り込む/今秋,東証8000円割れの恐れあり

9月14日の東京株式市場は日経平均が反落し、終値は8518円57銭(前日比97円98銭安)と年初来安値を更新し、2009年4月28日(8493円)以来の低水準で引けた。前日の欧米株高を受けて投資家心理が改善し、朝方は買い先行から日経平均株価も続伸して始まったが、ギリシャの債務問題の再燃をきっかけとした、投資家のリスク回避姿勢が払拭されたわけではなく、買い戻し一巡後は利益確定の動きが優勢となった。特に、前引けにかけて為替が1ユーロ=105円近辺に進んだことから輸出株が売られ、日経平均株価もマイナスに沈んだ。後場に入ると、アジアの主要
株価指数が軒並み年初来安値を下回ったことを受けて、指数は一段安。対ドル、対ユーロでともに円高に振れたことも売りに拍車をかけた。日経平均株価の下げ幅は一時100円強に及び、ザラ場では3月15日以来、約半年ぶりに8500円を割り込む場面もあった。




●ギリシア財政問題とユーロ崩落の背景   現在1ユーロ105円台  2011.9/14

★ギリシャからユーロが崩れる?

 2011年5月6日、独仏スペインなどユーロ圏の主要諸国の財務相がルクセンブルグに集まり、ギリシャやポルトガルなどユーロ圏で国債危機に見舞われている国々への対策を話し合う非公式会議が開かれた。昨年、ギリシャを皮切りにユーロ圏の国債危機が始まって以来、この手の非公式会議がしばしば開かれていたが、今回の会議は異例なことに、何が検討されていたかをめぐってユーロに打撃を与えることになった。ドイツのシュピーゲル誌が、この非公式会議で「ギリシャがユーロを離脱することを検討していると報告し、その件について議論した」と報じたからだった。

 国債危機で資金調達が困難なギリシャ政府は、EUから金を借りる必要があり、その見返りとして財政赤字を急減する厳しい財政緊縮を義務づけられた。だが、産業が少ないギリシャは公務員が多く、政府支出の削減がギリシャ国民の生活に大打撃となる。国民の多くは緊縮策に強く反対し、連日のように反政府デモが続いている。この状況下、ギリシャ政府は、EUに義務づけられた緊縮策を実現できないと考え、ユーロを離脱して、昔の一国だけの通貨ドラクマに戻ることを検討し始めたというのが、シュピーゲルの報道の趣旨だった。

 シュピーゲル誌によると、ギリシャがユーロを離脱した場合の悪影響を予測する報告書をドイツ政府がまとめた。それによるとギリシャは、ユーロ離脱とともに投資家からの信任を失墜し、ひどい経済難になる。離脱後に採用する通貨ドラクマは、発行開始とともに急落し、短期間に対ユーロの為替が半値になる。ギリシャは従来の国債をユーロ建てで発行してきたので、ドラクマに換算した政府の債務が急増し、返済できなくなって債務不履行に陥る。投資家たちは、ポルトガルやアイルランドなど、国債危機に見舞われている他のユーロ圏の周縁諸国もユーロから離脱すると考えて、ユーロ圏の国債危機がひどくなり、ひいてはユーロ全般に対する信頼が下落する。ドイツ政府は、ギリシャのユーロ離脱を防ぎたいが、独政府がギリシャ救済に公金支出を増額するのは国民の反対が強く困難だ。ドイツは、ギリシャの離脱を容認せざるを得ないとシュピーゲル誌は書いている。


▼複数の検討案の中からユーロ離脱だけ取り出して報道

 ギリシャがユーロを離脱したら、ギリシャ経済とユーロ自体の両方が大きな危機に直面することは、他の分析者も指摘している。ユーロ(欧州通貨統合)は、欧州で最強のドイツの信用力をユーロ圏全体に拡大するもので、欧州全体にとっては経済の安定と市場規模拡大による経済力の強化、ドイツにとっては影響力の拡大という利点があった。しかし、ギリシャを皮切りに経済が弱い国々がユーロを離脱していくと、EU経済の力は減退する。EUは、加盟や統合の方向の戦略や規則、手続きだけを決めて、離脱や解体の際の規則や手続きについて議論も決定もしていない。EUは最初から統合を成功させることだけ考え、失敗した時のことを考えていない。ギリシャのユーロ離脱は、政治的に決定できても、法的な取り決めがなく、実際の離脱は混乱したものになる。

 ユーロはEU統合の根幹だ。ギリシャの離脱でユーロ圏が分解したら、EU統合は意味がなくなる。EU統合やユーロの創出は、欧州を東西に二分していた冷戦の終結を機に、欧州を再強化して米国支配から自立させ、世界の極の一つに戻すために行われた。ユーロが解体すると、12年間の統合の試みが水の泡となる。

 このように、ギリシャがユーロを離脱したら大変なことになるのだが、実際には、シュピーゲルの記事は誇張だった。5月6日に独仏西などの財務相がルクセンブルグで非公式会議を開き、ギリシャ問題を議論したのは事実だが、そこでギリシャのユーロ離脱について話し合われたというのは間違いのようだ。実際に話し合われたことは、ギリシャが当初の目標どおり財政緊縮を進めて来年から国債の発行を再開するのは無理だとギリシャ政府が報告し、これを受けてドイツなどの財務相が、ギリシャの財務相に向かって「貴政府はやる気があるのか」「国有資産の民営化(切り売り)を急ぎなさい」と怒りながらも、目標を緩和することに同意し、国債発行を再開できないギリシャにEUが300億ユーロの追加救済融資を行うことを検討した。

 要するに、ドイツを中心とするEUの諸大国は、ギリシャに不満をぶつけつつも、追加融資してギリシャをユーロ内にとどめて救済し続けることに同意した。ギリシャ国債危機をめぐる状況が悪いのは事実だが、5月6日の非公式会議では、ギリシャのユーロ離脱と逆方向のことが話し合われていた。ギリシャ政府は最近、いくつもの打開策を検討し、その中の一つにユーロ離脱があったと指摘されている。シュピーゲル誌は、ギリシャ政府が検討した複数の打開策の中から、ユーロ離脱案だけを取り出して報道し、あたかもギリシャが間もなくユーロ離脱を決定するかのような印象を読者に与えた。この報道を受けてユーロの対ドル為替は3%下落した。


▼ユーロを自滅させ,ドルを延命させるドイツの動向

 シュピーゲル誌は、なぜユーロを崩壊させるような誇張を書いたのか。もしくは、シュピーゲル誌に情報を提供したドイツ当局者は、なぜ誇張を書かせたのか。以前から、ドルに対する世界の信頼が揺らぐ時に限って、ユーロを崩壊させようとする動きが起きる。 (ユーロを潰してドルを延命させる戦略か)

 ギリシャを皮切りとするユーロ圏の国債危機は、ドルや米国債の下落を防ぐために、米英覇権を守ろうとする米英系のヘッジファンドや債券格付け機関が、経済基盤が脆弱なギリシャなどを狙って、国債の価格基準であるCDS(債券保険)を売り放ち、国債格下げをして危機を誘発し、ドルより先にユーロを弱体化させ、世界の資金がドルを見放してユーロに移動するのを阻止する「金融兵器」の発動ではないかとの考えもある。 シュピーゲル誌などドイツのマスコミなどには以前から、EU統合の進展に反発する勢力が多い。シュピーゲル誌は以前から、EU通貨統合には根本的な欠陥があり、必ず失敗すると書き続けている。

 欧州の諸国を統合する構想は100年前からあったが、冷戦終結時にEU統合を開始する強い政治意志を持ったのは、ドイツなど欧州内部の勢力でなく、ブッシュ政権の米国の勢力である。ブッシュ政権が実現した突然の冷戦終結(1989年マルタ会談)に際し、ドイツは米政府から「東西統合やEU統合をやるなら今しかない」とせっつかれて動き出した。 (1990年東西ドイツ統一.1993年マーストリヒト条約の発効でEUが設立)

 ドイツは「ホロコースト(大量虐殺)」でイスラエルにも恫喝されて言いなりだ。シュピーゲル誌は、レバノンのハリリ元首相の暗殺に関して「ハリリを殺したのはヒズボラだ」とするイスラエルを有利にする記事を特ダネとして書いている(ハリリ殺害犯として最も可能性が高いのはイスラエルの諜報機関)。

 ギリシャのユーロ離脱が誤報とわかった後、こんどは「ギリシャは債務の再編を必要としているが、これは事実上の債務不履行(デフォルト)だ」という批判が出てきた。デフォルトという言葉を使うと、ユーロ圏の他の弱小諸国にもデフォルト懸念が波及して国債が下落するので、EU当局はこの言葉を使わず、代わりに「自主的な債務再編」と呼んでいる。デフォルトは、債権者と相談せず、債務者が債務不履行を宣言することだが、自主的な債務再編は、債権者と債務者が話し合い、債権者が自主的に債権の一部を放棄することだ。債務者であるギリシャ政府は、ドイツなどEU諸大国の了解を得た上で、債権者(その多くはEU各国の当局や銀行)と交渉し、嫌がる債権者を「自主再編に応じないならデフォルトする」と脅し、自主的な債務再編を進められる。格付け機関のS&Pは、これはデフォルトと同じことだと表明し、5月9日にギリシャ国債の格付けを2段階格下げした。格付け機関は、英米覇権の金融兵器の一部である。

 米国の新聞ウォールストリート・ジャーナルは「今や、ギリシャが大丈夫と思っているのは、全欧州でEU当局だけだ。EUは無期限にギリシャを救済できるわけでないので、ギリシャ救済はいずれ破綻する」と書いている。ニューヨークタイムスは「ギリシャはユーロを離脱した方が苦しみの時期が短くてすむので、さっさと離脱すべきだ」と書いている。いずれも、ギリシャ離脱でユーロが崩壊するとドルが延命するという裏の構造を踏まえつつ読むと、米国のマスコミの主張として納得できる。


▼EUはギリシャ、日本は原発でドル支え

 ギリシャ国債危機の再燃は、4月末に米連銀が米国債の買い支え(量的緩和策。QE2)を予定どおり6月末にやめることを発表し、買い支えを失った後の米国債や米国株が下落(QE2の資金は米国株市場にも流入)しそうだという予測が広まった後に起きている。同時に、ドルを基軸通貨とする国際システムが崩壊するという予測があちこちから出てくるようになった。「基軸通貨を持つのは負担が大きいので、米国は率先してドルの基軸性を喪失すべきだ」という主張まで出ている。

 新興諸国の中央銀行は、輸出で稼いだ外貨をドルや米国債として備蓄しておくことに不安を感じ、中国やメキシコ、タイなどの中央銀行が金地金を買いあさり、韓国の中央銀行はドルに替わって人民元に対する投資を増やした。米国では、銀行界が融資の担保としている米国の住宅の市況の下落に歯止めがかからず、米銀行界が米国債と民間ローン債権の両方で危険を抱えていることもわかってきた。

 そんなドルと米国債に対する崩壊感が高まる中で、これに冷水を浴びせるように起きたのが、今回のギリシャ危機の再燃だった。ユーロと並ぶ国際通貨である円に関しては、日本政府が浜岡原発の停止を中部電力に求めるなど「わが国は地震と津波と原発事故など危険がいっぱいの、投資に適さない国ですから、外国の投資家は近づかない方がいいですよ」という「弱いふり」のメッセージが発せられ、円安ドライブがかかった。

 日欧の動きに同調するように、上昇を続けていた金地金や原油など国際商品相場も、5月に入って急落した。この急落は、新興市場諸国のインフレの強まり(下落するドルに連動している通貨が多いので)などによって世界経済の成長が鈍化するとの見通しから原油が上昇から下落に転じたのがきっかけとされるが、明確な原因は不明だとの指摘もある。

 世界各地のタックスヘイブンにある巨額資金や、米国にある債券金融の資金(影の銀行システム)は、英米が覇権を維持するための「金融兵器」として使えることを以前に書いたが、そうした資金がヘッジファンドなどを通じて先物売りとして国際商品相場に流れ込んだとも考えられる。ドルと米国債に対する国際逃避が強まる中、金融兵器の威力も落ちているようで、商品相場の急落は短期間に終わり、金や原油の相場がまもなく反騰している。

 今後、5月後半から8月にかけて、米政府の財政赤字が法定上限に達し、米議会は上限の引き上げに応じそうもないため、米政府はこれ以上国債を発行できない状態に陥ると予測されている。

 英国エコノミスト誌は「ドルは下落するだろうが、それが米国の覇権衰退を意味するものでない。ドル安は米国の債務を減価させ、米企業の輸出力を高める良いものだ。ドル下落を恐れるのは中国など米国債を持つ外国勢だ」という趣旨のことを、先制的に書いている。今年は夏にかけて、ドルや米国債が崩壊していく方向の動きと、ドルや米国債を延命させるためにユーロや国際商品相場の下落、それから中国など新興市場の経済をバブル崩壊させようとする引き起こす動き、日本のように自主的に「弱いふり」を加速する国など、今後はドル崩壊を軸とした攻防が続きそうだ。


カルメンチャキ |MAIL

My追加