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2011年05月05日(木) 「日本株買い」の復活

「日本株買い」の復活


2011年 5月 3日 15:28 JST

長引く経済停滞に加えて大震災と原発事故の打撃を受けた日本株に対して、世界のミューチュアル・ファンドのファンドマネジャーの多くは新たな価値を見出し3月11日の震災後に日本株を買い増している。

 日経平均株価は震災直後の2日間で16%急落したが、その後5日間でおよそ12%反発。最近では、被災した福島原発からの放射能漏れが続くにもかかわらず、日経平均は9850円付近で推移している。




●地震と津波によって日本の存在が再認識された

 ファンドマネジャーの中には、世界の投資家にとって震災が転機になったと考える人もいる。投資家のセンチメント、資金移動、日本の長期経済見通し、 日本株の値ごろ感はすべて、日本が再び国際資金の投資先として選好される市場の1つになる可能性を示唆しているという。株価の急反発は、その幕開けを告げ ているのかもしれない。


 マシューズ・ジャパン・ファンドとマシューズ・アジア・パシフィック・ファンドを運用するポートフォリオマネジャーの石田泰三氏は、「市場が日本を 見る目が大きく変わった」と指摘する。震災のニュースがメディアで大きく取り上げられていることで、「日本が国として再認識されるきっかけになった」と言 う。


●資金の流入

 震災後に約1億ドルの資金がマシューズ・ジャパン・ファンドに集まったと石田氏は話す。ティー・ロウ・プライス・グループによると、外国人投資家は3月末まで12週間連続で日本株を買い越した。


 3.3億ドルの運用資産を有するマシューズ・ジャパン・ファンドは、震災前から日本株の買い増しを始めていた。日本株の割安感に加えて、今後円安が進み、世界需要が増加することが日系輸出企業にプラスになるとの見込みから、石田氏は2010年10月に同ファンドの日本株組み入れ比率を30%から 40%に引き上げた。


 震災と、被害を受けた東京電力の福島原発の事故による停電と放射能漏れは、日本経済に大きな打撃を与えたが、過去の例からすると早期復旧が可能と思われる。


 何しろ日本は、第二次世界大戦で焼け野原になった後わずかな期間で世界第2の経済大国になり、1995年の阪神・淡路大震災後の素早い復興でも世界を驚かした国である。


 今回の震災による3万人弱の死者・行方不明者は戻らないが、地震で破壊された茨城県の高速道路がわずか6日後に復旧するなど、生存者はすでに復興への決意を示している。


 野村證券は、震災の影響を反映して2011年のGDP成長率予想を0.4%から0%に引き下げたが、復興需要による押し上げ効果を見込んで2012 年の成長率予想は2%から2.2%に引き上げた。野村のアナリストは、工場の操業再開や生産拠点の移転などによるサプライチェーン問題の解消に伴って GDPは拡大し、復興需要で経済成長はさらに加速すると見込む。


●過小評価されている日本株

 震災直後の株価は正当化される以上に下落したという見方から、日本株を買いに走った外国人投資家もいる。

 多くのポートフォリオマネジャーは、震災直後の市場において、被害を受けていない銘柄までも見境なく日本株が売り飛ばされるという、典型的な「パニック売り」がみられたと言う。


 オークマーク・インターナショナルなどの運用を手掛けるデービッド・へロー氏は、今こそが長期投資家にとって「短期的な焦燥感に乗じる好機」であると話す。長期的に日本株が過小評価されてきたことが、さらなる資金流入につながると見込んでいる。


 へロー氏のファンドは、3月1日時点のドル建て資産総額では23%を日本に投資していたが、震災後の買い増しで保有する日本株が10%増加。同氏 は、飽和した先進国の企業は将来性がないと考える投資家もいるが、企業価値は、「会社がどこにあるかではなく、どこでキャッシュフローを稼ぎ出しているか に基づいて見極めないといけない」と言う。


 へロー氏や他のファンドマネジャーは、海外市場が売り上げの大部分を占めるにもかかわらずに十把一からげに「日本株」としてみられている企業の例として、キヤノン、トヨタ自動車、ソニーなどを挙げる。これらの銘柄は低迷する国内経済と結び付けて考えられるため、業績成長が株価に反映されにくい。


 ティー・ロウ・プライス・ジャパンのポートフォリオマネジャー、キャンベル・ガン氏は同社ウェブサイトに掲載したインタビューで、「バリュエーショ ンで見ると、日本株は震災前からかなり割安だった」と述べている。さらに、震災後の株価急落でその傾向が強まったため、「市場が落ち着きを取り戻せば、今 後1~2年は日本株が他市場をアウトパフォームする可能性がある」と話す。

 日本株は相対的に海外の株式よりも割安だ。マシューズ・インターナショナルの石田氏によると、震災前の日経225採用銘柄は平均してPER14倍、PBR1倍で取引されていた。



●日本株のMSCI EAFE(米国を除く先進国市場)指数にしめる比率

 比較として、S&P500構成企業は3月31日時点でPER約16倍、2010年末の平均PBRは2.2倍だった。

 日本株は1980年代に海外の株式をアウトパフォームしたが、1990年代に入って成長率に対して割高感が強まったため、投資家は日本株を売り払ったと言われている。ピーク時には、日本株は平均してPER35倍、PBR2倍で取引されていた。

 2000年代には、日本の輸出企業が1980年代のバブル期に利益成長をけん引したアメリカ市場に加えてアジアの新興国でも事業展開を始めたことで成長率を取り戻したが、株式市場はおおむね低迷。日本は中国やインドなど急成長を遂げる国々の影に隠れることになった。


 日本市場の停滞は、(ヨーロッパ、オーストラリア、極東)指数の組み入れ率にも明らかである。1988年に指数の65%を占めていた日本株は、2010年末には 2000年代初頭と同水準の22%まで落ち込んだ。世界中の株式を運用するファンドマネジャー達は、指数が示すよりも日本株の保有を減らすことで、ファン ドのパフォーマンスを上げることも多かった。


●日本に目を向ける


 そうなると、日本市場をこれだけ長く無視していた外国人投資家が、今なぜ日本株を買い始めるのか、という疑問が湧いて来る。

 マシューズ・インターナショナルの石田氏は、震災が世界経済にとっての日本の重要さを再発見する機会になったのが理由だと話す。工場が被災したことで、自動車部品から半導体製造装置まであらゆる物が国際的に不足した。

 石田氏は「今でも多くの製品が日本で生産されていることが明らかになった」と述べ、震災後の供給不足で、多くの人が「生産拠点」としての日本の役割に気付かされたと言う。

 モーニングスターの投資信託アナリスト、ロブ・ウェリー氏は、震災が、一部ファンドマネジャーが待っていた日本市場への突破口になったと指摘する。

 「ファンドマネジャーは皆、日本で買いたい銘柄のリストを持っている」と話すウェリー氏は、「今までは値ごろ感がなかったため、買い時を待っていた」と言う。「その買い時がこのような大惨事によってもたらされるとは誰も予想しなかった」と付け加えた。

 (筆者のロブ・カラン氏はテキサス州デントン在住のライターで、ダウ・ジョーンズ・ニューズワイヤーズとウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニスト)

記者: Rob Curran


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