女の世紀を旅する
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2006年09月12日(火) |
中東に暗雲:イラン核問題と制裁決議の行方 |
《 中東に暗雲:イラン核問題と制裁決議の行方 》
ブッシュ・ブレア両首脳がイラン傘下の武装勢力ヒズボラの武装解除などを求める国連決議案提出で合意。これとは別に、安保理はイランに対し、ウラン濃縮中止を求める制裁決議を可決する。狙いは、ヒズボラと核という2つの武器をイランからもぎ取ること。イランの出方によっては、危機は深まる。
※ イスラム・シーア派の武装組織ヒズボラに武器・資金を支援しているのは,シーア派のイランであり,今回のレバノンの戦闘は米・イランの代理戦争ともいえよう。イスラエルを支援する米国としては,最終的にイランに制裁を発動し,場合によっては戦争も辞さない覚悟である。そうなれば,石油価格が再び高騰し,世界経済に打撃を与えることになる。中東からの石油輸入大国・日本にとってイランの核問題と制裁決議の行方は,経済上の死活問題であるだけに,最大限の注意を払う必要がある。
●永続的な停戦にはヒズボラの武装解除が必要
ブッシュ・ブレア両首脳は7月28日ホワイトハウスで会談したあと記者会見、レバノン危機解決のため国連安保理決議案を提案することを明らかにした。決議案の内容は明らかにしていないが、ワシントン・ポストは次のような主旨と伝えている。
1国際平和部隊をレバノン南部に派遣する。 2イスラエル軍と武装勢力ヒズボラの戦闘を中止、イスラエル軍は撤退する。 3ヒズボラを04年の国連決議1559に従って武装解除する。
両首脳は記者会見で、決議案の内容を7月31日から安保理の各理事国に示し、可能なかぎり早く採択したいと述べた。また、ブッシュ大統領は、ライス国務長官を中東に派遣、イスラエルやレバノン各政府にも説明して支持を求める考えを示した。停戦と国際平和部隊の派遣については、EU諸国やアナン国連事務総長が戦闘の勃発直後から主張したが、ブッシュ大統領は、停戦は永続的なものでなければ意味がないとして反対してきた。
この記者会見でも、ブッシュ大統領は「我々の目標は、永続的な平和の実現であり、一時的な停戦ではない」と述べて、性急な停戦に反対を表明した。そして、永続的な平和を実現するためには「ヒズボラを武装解除し、イランやシリアなど外国の介入を排除して、レバノン政府が全国土の治安維持にあたる力をつける必要がある」と主張。新たな安保理決議には、これらの項目を加え、国連憲章第7章に基づいて武力行使も可能な決議案にしたいとの考えを示した。
●イラン核問題でも制裁決議は必至
レバノン危機で、イラン追求の動きが強まる一方で、米英など安保理常任理事国5カ国とドイツはイランの核開発問題でも安保理決議を求めることで合意。7月28日、フランスが各国を代表して決議案の原案を安保理各国に配布した。その主旨は、イランに対し、ウラン濃縮活動と再処理活動など、核関連活動をすべて中止することを要求するもので、早ければ、7月31日にも採択される。イランが8月31日までに従わない場合、国連憲章第7章に基づき経済制裁が科されることになる。
イランの核開発問題では、米英など安保理常任理事国とドイツが6月初め、イランがウラン濃縮の中止をすれば、EUの軽水炉の提供や米の制裁の一部解除問題などで交渉を開始するとの提案をした。しかし、イランは8月22日に回答するとの立場を示しただけで、ウラン濃縮活動など一連の核活動をそのまま続け、米欧内に懸念が拡大。これを背景に、これまで制裁に反対していたロシアや中国も新決議案に同調する意向を見せ、採択は必至となった。
これに対し、イラン政府専門家会議のハタミ議長は7月28日の全国向け放送で、「国連の力でイランの核活動を中止に追い込むことはできない」と主張、安保理が決議を採択しても拒否する考えを表明した。イランの核開発は、レバノンに布陣する武装組織ヒズボラとともにイランの対イスラエル戦略の柱であり、イランが中東の強硬派をリードする上でも不可欠の武器だ。ところが、今回のレバノン危機で、この2つをイランからもぎ取ろうとする動きがはからずも同時に表面化した。イランが今後どう出るかが、今後の中東情勢を左右することになりかねない。
●レバノンの戦闘は米・イランの代理戦争
今回のレバノンの戦闘激化は、ヒズボラ側はまったく意図しないことだったというのが定説だ。APによれば、レバノン議会のキリスト教系政党のカーゼン議員も「ヒズボラが判断ミスをした」と語っている。戦闘の発端は7月12日、レバノン南部で、ヒズボラ部隊が国境を越えてイスラエル軍の歩哨所を攻撃、イスラエル兵2人を拉致したのがきかっけ。カーゼン議員によれば、拉致した兵士とイスラエルが拘束している政治犯の交換が目的だったという。ガザでは、6月25日、ハマスが同じ様にイスラエル兵1人を拉致、政治犯との交換を要求した。これを援護するねらいもあったようだ。
ところが、これに対するイスラエルの反撃は予想外に激しいものだった。ヒズボラの拠点一掃を掲げ、イスラエル軍部隊がレバノン南部に攻め込むと同時に、空軍、海軍も連日攻撃を加え、ヒズボラの拠点と見られる一帯を徹底的に破壊した。ブッシュ政権もこれを容認、アナン国連事務総長の停戦提案も一蹴した。英紙ザ・タイムズなどによれば、同政権は開戦後、複数の大型チャーター輸送機に武器や爆弾を満載し、英国経由でイスラエルに送り込んだという。イランはヒズボラに武器と資金を提供しているが、米もそれに劣らすイスラエルに肩入れしたことになる。
レバノンの戦闘が長引き、犠牲者が増えるに従って、停戦を求める国際世論が高まっている。しかし、ブッシュ政権はレバノンの戦闘もイランの核問題も国際テロ戦争の一環と位置づけ、強硬姿勢を崩さない。同政権が今後ヒズボラとイランを追い詰めれば、イランは再三予告しているように石油などを武器に反撃しかねない。そうなれば、日本にも大きな影響が出る。中東という油田の上での、この危険な駆け引きが、何時まで続くのか、終わることはありそうもない。
★《 米国はイラン制裁を発動するか 》2006年9月11日
イランがウラン濃縮を続け、核兵器開発の疑惑を深めている。これに対し、米は9月中にも制裁を発動する構えで、関係国に働きかけている。中ロやEU内には、交渉を優先するべきだとの主張が強いが、イランが今後も濃縮を続ければ、米の強硬論が有利になる。レバノンの戦闘がようやく終わり、原油価格も落ち着いたと思った矢先、また暗雲がひろがる気配だ。
●現在は制裁慎重論が支配的
ブッシュ大統領は9月6日中間選挙の応援演説で、イランの指導者を「暴君」、「テロ組織アル・カイダと同じように危険」と決め付け、彼らに核兵器を持たせてはならないと強調した。国連安保理がイランに対し「8月31日までにウラン濃縮の中止を要求、中止しない場合、制裁を検討する」と決議した。しかし、イランは従わず、濃縮を続けている。ブッシュ大統領の厳しい調子は、この国連決議に従って制裁に持ち込もうとする米の強硬姿勢の表明だった。
だが、国連安保理は米の思惑どおりに必ずしも動かない。このブッシュ演説の翌日、安保理5カ国とドイツの代表がベルリンで会合。イラン制裁の検討を開始した。APによれば、この席上、米のバーンズ国務次官は「国連決議に従って、9月中に制裁を開始するべきだ」と主張した。しかし、中国とロシアは「性急すぎる」として、この提案には同調しなかった。また、英仏独3国はEUのソラナ外交代表がイランの核交渉責任者ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長と会談する機会を探っているため、この結果を見守る姿勢を示した。
こうした各国の動きと並行して、国連のアナン事務総長も2日発行のフランス紙ル・モンドとのインタビューで、「制裁がすべての問題の解決につながるとは思わない」と述べ、米の強硬論を牽制した。また、IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長も8月29日、外務省の金田副大臣との会談で「イランが濃縮活動を完全に停止することは内政的に困難」との見方を示した。そして、「NPT(核拡散防止条約)脱退や査察官の追放に至った北朝鮮のような事態の再来を招かないよう対応するべきだ」と述べ、制裁には慎重な姿勢を示した。
●イランの動き次第で強硬論にも出番
慎重論の一方で、イランの非協力的な姿勢に不満を持つ国は多い。ドイツのメルケル首相は6日議会で、「イランが安保理決議を無視するのを黙って見てはいられない」と不満を表明。また、ロシアのラブロフ外相も6日、「制裁を支持することも考えている」とイランを牽制する発言をした。安保理常任理事国とドイツが6月、経済支援などを含めた包括的解決策を提案したのに対し、イランは満足な回答をしていない。ラリジャニ事務局長がソラナ代表と会談を約束しながら直前にキャンセルを重ねたなどの不満があるのだ。不満がさらに広まれば、米の強硬論の出番になる。
米は11日にも、国連安保理で制裁決議案の作成に入るべきだと主張しているが、今のところ他の理事国の反応は鈍い。このため、米財務省はこうした安保理の動きとは別に、独自の制裁に向けて動き出した。同省のレビー次官が8日明らかにしたところによれば、財務省はイラン国営のサデラト銀行関連の業務を米金融システムから排除する措置を取った。イラン政府が同銀行を通じ、レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどに活動資金を送ったという理由だ。米財務省は今後、イランの核開発やミサイル開発でも、関係銀行や企業にこうした措置を取るという。
レビー次官は11日からヨーロッパを訪問、各国の金融機関に対しても、イランとの取引を停止するよう呼びかける。レビー次官は、昨年9月から北朝鮮に対して発動した金融制裁の責任者としてよく知られている。同次官がイラン制裁にも登場したことは、ブッシュ政権が同次官の対北朝鮮金融制裁を如何に高く評価しているかを示している。しかし、年間貿易額が数十億ドルの北朝鮮に較べ、イランは石油輸出大国。金融制裁によって如何なる影響が出るか、無関心ではいられない。
●国際世論は外交解決を期待
ロシア原子力庁のキリエンコ長官は9月8日、ロシアがイランのブシェールに建設している原子力発電所が来年9月に完成すると発表した。イラン念願の原発1号基だ。当面、核燃料はロシアが供給、使用済み燃料棒は灰とともにロシアが引き取る。しかし、イランはこれに不満で、独自に核燃料を作ると主張し、その一歩としてウラン濃縮を続けている。自前の核燃料を使用する段階になれば、密かに一部を核兵器に転用する機会も増えることになり、米欧に焦燥感が増すのは間違いない。
米の世論調査機関ドイツ・マーシャル基金が6日に発表した調査結果によれば、米欧の市民の大多数はイランの核問題は外交で解決するべきだと考えている。調査は6月6日から24日まで、米国とヨーロッパ12カ国の市民1,000人を対象に電話と聞き取り調査を実施した。その結果、外交で問題を解決するべきだという答は、ヨーロッパでは84%。米国では79%に上った。もし、外交で解決できなかった場合、どうするかという質問では、力を行使するべきだという答が、米国では45%。ヨーロッパでは37%だった。
ブッシュ大統領は今後の方針として、外交解決を目指すが、軍事力の行使も選択肢の1つという立場を変えない。政権内では、空爆によってイランの核施設を破壊する計画を立案中などの情報も絶えない。しかし、軍事行動に出れば、イランは反撃し、石油ルートが混乱。世界経済は麻痺し、イランも大打撃を受けるだろう。経済制裁の動きが出るだけでも、原油価格が高騰しかねない。
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