女の世紀を旅する
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2001年12月30日(日) |
知られざる北朝鮮の悲劇 |
《破局に向かう北朝鮮の動向》 2001年12月30日
●「ワシントン,ソウル,東京を火に海に!」と叫ぶ北朝鮮の真意
1998年12月12日に北朝鮮の国営朝鮮通信が,青年学生大会の演説者らが「敵の牙城であるワシントン,ソウル,東京を火とし,祖国統一の歴史的偉業を成し遂げると述べた」と報じたことがあった。ここで東京もターゲットにされていることに我々日本人は面食らうはずだ。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」っていう塩梅だからだ。実はこの98年の夏,日本の防衛庁は北朝鮮情勢に関して強い危機感が芽生えていた。北朝鮮のテポドン・ミサイルの発射と並んで,米政府(クリントン)が対北朝鮮政策を強硬路線に転換するとの情報が在日米軍を通じて入ってきたからだ。
アメリカは北朝鮮が金昌里に建設中の地下施設が核開発を目的にしている疑いがあり,核査察に応じなければ,強硬手段をとらざるをえない,ということだった。12月に開かれた米朝協議のなかで,アメリカが改めて地下施設の査察を要求すると,北朝鮮は査察の補償金として3億ドルを要求した。当然,アメリカはこれを突っぱね,米朝協議はなんら進展がないまま終わったが,北朝鮮では10万人規模の青年学生大会が開かれ,上記の物騒な宣言が発せられた。中国のマスコミは「北朝鮮は臨戦体制に入った」と報道し,朝鮮中央放送は「日本も北朝鮮の打撃目標になった」と報じるなど,緊張が一気に高まった。
北朝鮮の核疑惑は以前からあり,米国の強い非難に対し,北朝鮮は1993年に核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言し,94年には国際原子力機関(IAEA)からの脱退も発表した。核を野放しには出ないとする米国は武力行使に踏み切る気配をみせたから,朝鮮半島情勢は緊迫の度合いを深めた。最終的には,北朝鮮が核開発を凍結する一方で,日米韓などが朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を設立し,2003年までに軽水炉型原発2基を建設することで米朝は合意し,間一髪のところで武力衝突を回避した経緯がある。
●朝鮮半島有事への体制整備を急ぐアメリカ
米議会(共和党が優勢)はかねてから,民主党のクリントン政府の北朝鮮政策を「柔軟すぎる」と批判してきた経緯があり,北朝鮮が核査察を受け入れなければ,KEDO関連予算を承認しないはずだ。好戦的なブッシュ共和党政府が登場した現在,アメリカはイラクを武力制裁したのと同様に,武力行使を含めた強硬措置をとることが考えられる。アメリカの北朝鮮政策の転換は,1998年11月ごろから様々な形で日本側に伝えられた。北朝鮮政策調整官のペリー前国防長官をはじめ,キャンベル国防次官補,アミテージ元国防次官補ら安全保障の専門家が相次いで日本を訪れ,北朝鮮がすでに日米にとって脅威となったとの認識を伝え,日本側が早急に対応策を講じることを迫った。具体的には,新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法案の早期成立による朝鮮有事への体制整備である。
アメリカの政策転換で重要なのは,KEDOの事業凍結と経済制裁で,200万人ともいわれる餓死者が出るほど経済破綻にひんしている北朝鮮にとって,特に日米が「経済制裁」に踏み切れば,金正日(キムジョンイル)体制が崩壊する可能性が高い。このため北朝鮮側は「経済制裁が実施されれば宣戦布告とみなす」(朱昌駿 駐中国大使)という厳しい認識も示されている。アメリカ自身も「経済制裁発動時には,戦争を覚悟する必要がある」(ペリー前国防長官)との強い決意を示す。米朝が武力衝突する危険はすぐそこまで迫っている,しかし,日本はまたもや平和憲法との絡みで,米韓が北朝鮮と戦闘状態に至っても,みずからが武力行使に踏み切ったり,武力行使と一体化した行動はとれない。
今回の米軍のアフガン戦争に際して,自衛隊が後方支援できるよう規約が改正されたが,武力行使が出来るのは,日本が攻撃されたときだけである。しかも「専守防衛」が基本であり,朝鮮半島で米軍,韓国軍が窮地におとされても支援の軍隊は派遣できない。傍観しているしかない。日本の平和憲法は朝鮮半島の有事を想定していないのである。
しかし,アメリカのペリーの説得などで,北朝鮮をめぐる危険な状況について,日本の政治家の間にも事態の深刻さがようやく理解され始めた。小泉首相はこのたびのアフガン戦争で示したように米軍への後方支援を積極的にやることを打ちだした。また自由党の小沢一郎党首はもともと防衛問題の積極論者として知られ,国連平和維持活動(PKO)協力法を改正し,国連平和維持軍(PFK)参加凍結解除や,国連決議にもとづく多国籍軍支援でも合意している。民主党の菅直人も朝鮮半島で米軍と北朝鮮の戦闘が起きた場合には,米軍の要請や国連決議にもとづく自衛隊の後方支援を認める考えを示した。公明党の神崎武法も同様の認識を示している。以上は,三陸沖へのミサイル発射を機にようやく日本人の間に危機感が醸成されたことが背景としてあった。
日本政府は,北朝鮮がミサイルを発射した直後,当面,日朝国交正常化交渉に応じないことや,食糧支援を見合わせることなどを決めた。これは北朝鮮に衝撃を与えることとなり,朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は「われわれがもっとも注視しているのは日本」と指摘し,「万一,日本が朝鮮侵略戦争に足を踏み入れた場合,日帝に対する積年の恨みと怒りを合わせて報復攻撃を加える」と反発した。
日本がアメリカの制裁措置に呼応し,北朝鮮に対する貿易をストップさせたり,在日朝鮮人の送金を阻止させるなどしたら,それこそ北朝鮮の緊張状態はピークに達しよう。2001年12月に朝鮮総連の幹部が朝銀の不正融資に関与したことで逮捕されたことは,北朝鮮としては一大事件なのだ。朝鮮総連が主導して北朝鮮への送金がなされてきた経緯を考えればそれもうなづける。今回の北朝鮮の工作船が奄美大島の東方沖合で撃沈された事件も,この朝鮮総連の幹部逮捕が背景としてあると韓国通信が伝えているが,たしかに相関関係はありそうだ。
ところで在日朝鮮人の北朝鮮への送金は,公式ルートでは年間十数億にずないが,裏金は数百億円にのぼるといわれている。しかし,近年の日本の深刻な不景気もあり,裏金も減少傾向だ。そこで北朝鮮は近年,国家ぐるみで覚醒剤や偽ドル札を密輸し,日本や西欧など世界各国から警戒されるほどまでに,落ちぶれてしまった。汚い手段を平気でやるようになった。
北朝鮮の独裁体制を支えてきたのは,日本からの豊潤な資金の流入であり,日本との経済的なパイプが断たれれば体制の崩壊につながりかねない。日本当局も裏金の送金を厳しく規制するようになっており,それゆえ北朝鮮が日本にキバを剥いてくるのも当然のことなのだ。北朝鮮の国家存亡の危機は確実に到来しているといえよう。
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