2018年07月17日(火) |
覆面企画8後書き(2) |
後書きの続きです。
■ストーリーの構築において気を使った点、苦労した点などあれば教えて下さい。
世界観の構築。 作中には出す必要がなくても裏で設定を考えておかなきゃ書けなかった箇所がいろいろあって(建物の間取りとか結婚の制度とか)、結局、考えた設定で使ってないのとか、下敷きになってるけど表に出てきていないのとか、いろいろあります。
そして、反省点。 『主にミャオ族風+いろいろミックス』な異世界にしてしまいましたが、それって短篇には向かなかったかなあと思いました。 6000字の短篇で、その世界の風俗を、ストーリーに直接関係ないことまでいちいち全部描写すると煩雑になるから、あんまり独自の世界観にしてしまうと、読者に絵が伝わりにくいのではないかと……。 『なんちゃって中世ヨーロッパ』風だったり、中華風とか和風とか、あきらかにモデルの国がわかる感じだと、いちいち描写しなくても、読み手が脳内の知識に照らし合わせて、それらしい風景や衣装、小道具を想像してくれるじゃないですか。 それが、ヘタに独自の世界にしてしまうと、着てる服とか、建物とか、ちゃんと説明しないと、たぶん、絵が浮かばないですよね。 でも、枚数的にも、話のテンポ的にも、いちいち描写してられない。
というわけで、そのへん、ちょっと無理をしてしまいました。 結果、たぶん、絵が浮かばない、あるいは読み手ごとに脳内映像(服装とか建物とか)が全く違うことになってしまっているのではないかと……。 いや、たとえば読んだ人の脳内でプディヤが金髪だったり建物が洋風だったりしても、それはそれで一つの解釈なので別に良いのですが、映像を思い描こうとしても情報不足で思い描けなかったり混乱した人がいたら(たぶん、いたと思います)、それは私の失敗です。
■削ったエピソードなどありましたか? 作成裏話歓迎です。
エピソードではなく、書けなかったり書かなかったりした設定の供養ですが……。 ものすごく長いので、面倒な方は読み飛ばしてください。
炎龍鳥について詳しく描写できなくて残念でした。 『ネタを思いついたきっかけ』のところでも書いたけど、炎龍鳥は、ただの鳥ではなくて、何か始祖鳥とか翼竜的な、歯の生えた巨鳥なんです。 すごくデカくて、胴体が人間の胴体くらいあります。 攻撃的な性質で、家畜だけでなく、場合によっては人間も襲うので、神聖視される一方で害獣でもあり、被害が増えると駆除するのですが、普段は集団で、まず弓矢や投槍で落としたところで投網をかぶせ、よってたかって刺叉的なもので抑えて山刀で仕留める的なことをやります。 婚礼前の若者は、それを、一人でやるのです。 といっても、絶対に鳥を仕留めなきゃいけないわけじゃなく、羽を何枚か引っこ抜いてくるだけでも良いのですが(落ちてる羽を拾って『引っこ抜いた』と言い張る手もあるのですが、高山に住んでるので、落ちてる羽を探して拾うだけでも大試練)、やっぱり鳥を仕留めて持ち帰ったほうが、だんぜん男が上がります。 プディヤは兄さまを崇拝してるので、『きっと炎龍鳥を何羽も狩ってくる』なんて言っていますが、そんな人は実際にはまずいなくて、子供だから自分の兄を過剰に英雄視してるだけで、ユウアムも、きっと、良くて一羽、あるいは羽を数枚だけでしょう。 それでもプディヤは別にがっかりしたりせず、羽をかざして下山したユウアムの勇姿にうっとり見とれて、(ほらね、わたしの兄さまはやっぱりすごいでしょ!?)と得意満面で胸をときめかすでしょう。
あと、儀式用の戦装束について。 これ、表記を『戦袍』にしようか迷ったのですが、それだと完全に中華風になりそうなので、単に『上衣』にしておきました。 これの裾のひらひらがないのとか、こんなのみたいな感じ……かな?
で、作中にもある通り、ベースは藍染で、そこに、地が見えないほどびっしりと隙間なく連続幾何学文様を刺繍するのですが、『銀蚕糸』(←架空素材)という、とてもしなやかで強い希少な絹糸を五色に染めたものを何重にも刺し重ね、要所要所には金属片を縫い込んだりもして、布製のしなやかさや軽さはそのままに鎧に負けないほどの強度を出し、装飾であり魔除けであるだけではなく物理的な防具の役割も果たす……という設定です。
〈大屋根〉というのは、母系制の血縁コミュニティのことであると同時に、その大家族が住む建物そのもののことでもあります。 建物は山を背にしていて、石造りの二〜三階建が何棟も軒を接し、ところどころ渡り廊下で繋がれた構造で、階段は木製の梯子段。 福建土楼のような円形や四合院のような整然とした形式ではなく、必要に応じて建て増しを繰り返してきた不規則な配置で、たまたまできた隙間は中庭として作業場や子供の遊び場やみんなの交流&憩いの場として利用されていて、中庭か前庭のどこか一箇所以上に井戸があるでしょう。 井戸端には必ず銀蝶樹が植えられていて、その下には、きっと、水の精霊的なものが祀られていますね。 先祖の廟は、それとは別にあり、奥庭がそのまま山の斜面に続いている上のほうにある、神社やお寺の『奥の院』的な立地です。
プディヤの部屋は前庭に面した二階または三階で(『長屋門』的な立地かも?)、独身の娘たちの小部屋がずらりと並んでいる中の一室。 寝台と小さな作業机と椅子があるだけの小さな部屋(全部同じ広さ・造りで、跡取り娘だからといって特に広かったりするわけではない)がずらりとあって、女の子は10歳前後でその個室を与えられます。 娘たちの個室が表に面しているのは夜這い文化の名残りだけど、そのわりに個室が与えられる年齢が低めなのは、精神統一して刺繍をするための作業部屋でもあるからです。
一方、男の子は、12〜3くらいで、『家庭内若衆宿』的な大部屋での集団生活に入ります。 通過儀礼に失敗して結婚できなかった男は、一生この大部屋で、後輩の指導・監督的役割を果たして過ごします。 失敗は不名誉なことだし、いろいろと鬱屈もあるでしょうが、一応は年長者として尊敬される立場ではあるし、まあ、一生が男子校の合宿か修学旅行みたいな状態で、それなりに楽しいんじゃないでしょうか。 制度としての夜這いは廃れているけれど、恋愛にはおおらかなので、本人の頑張り次第では、お祭りの時などにいろんな女性と遊べたり、正式な結婚はしなくても、こっそり部屋に通わせてくれる女性を確保できたりするかも。 相手が同じ〈大屋根〉の女性だったり、夫のいる女性だったらスキャンダルで一族追放モノだけど、他家の未亡人や未婚者なら、そんなにうるさいことは言われません。
青年男女の結婚は、〈大屋根〉の当主以外は、完全に自由恋愛の結果です。 お祭りや共同作業等で他の〈大屋根〉の娘と知り合い、しばらく交際して互いの気持ちが固まったら、各自の〈大屋根〉の当主に申請して手はずを整えた上で、青年が炎龍鳥狩りの儀式を経て正式の求婚をし、婿入りします。
婿入りした後も生家の姉妹(〈糸の姉妹〉)たちとの絆は変わらず、〈糸の姉妹〉たちは彼のための衣装に刺繍をし続け、毎年の正月や男性の人生の節目節目に、婿入り先に新しい服を届け続けます。 男性が死んだときも、実家の妹たちが刺繍をした死に装束で埋葬されます。 ユウアムの言う通り、〈糸の兄妹〉の絆は神聖で永遠なのです
当主後継者の結婚だけは、単なる恋愛の結果ではなく、〈大屋根〉どうしの力関係のバランスとか、相手の青年の当主補佐としての能力が考慮されますが、そういうことを考慮した上で、本人が相手を見繕って打診し、同意を得て結婚します。 候補選びの際は現当主や年長の親族女性たちが助言をしますが、最終的な選択権は、あくまで本人たちにあります。 なので、プディヤが将来、意に染まない相手と結婚させられることはないので、ご安心ください(笑) たまたま好きになった相手がどうしようもないぼんくらのあっぱらぱあの極楽とんぼだったりしたら諦めなければならなくなるかもしれませんが、プディヤはそんな男は好きにならないので大丈夫。 プディヤは、同志として支え合い尊重し合える相手と結婚し、責任感の強い立派な当主になり、しわしわになるまで長生きして皆に尊敬されるでしょう。
■その作品の続編または長編化のご予定は?
長編化の予定ないですが、書いてる途中で思いついた続編を、いつか書いてみたいです。 とはいえ、書けるあてがないので、あらかじめ供養として、ここで披露しておきます。
当主になったプディヤが年老いた頃、炎龍鳥狩りで片足(かどこか)が不自由になって結婚できず若者部屋でくすぶってる男に、妹(実妹じゃなく従妹か又従妹くらいの親戚の女の子だけど、この村の人たちの認識では『妹』)が恋をして、この村では同じ〈大屋根〉のものは結婚できないけど外の世界では実妹以外なら結婚できるらしいと知って、駆け落ちする話です。 この村の人たちにとって、村が世界のすべてだから、外への駆け落ちは、世界を捨てるような覚悟でしょう。 老当主であるプディヤは、兄との結婚の許可を迫るひたむきなヒロインを厳しく諌めるけど、最終的には、建前上はあくまで許さないままながら、駆け落ちを黙って見逃します。 きっと、子供時代のくすぐったい想い出にしたはずだったユウアム兄さまのことを思い出しながら……。 そして、隔絶された高地で他の文化を知らずに過ごしてきたこの村の、伝統文化の崩壊が忍び寄っているのを感じながら……。
■その作品で気に入っている箇所はどこですか?
プディヤが、『もうすぐ十になるわ』と言うところ。 これ、別に、この村では十歳が何か特別な節目の年であるというわけではなく、単に、ずっと年上の兄さまに恋する子供として少しでも背伸びしたかっただけで、それがいじらしいと思って。 ちなみにユウアム兄さまは二十歳くらいです。
あと、銀蝶樹の森のシーン。 プロット段階ではプディヤが刺繍をやり直すのがどこか特に考えてなかったけど、調整の結果、花盛りの月夜の森なんて綺麗なシーンを作ることができて満足です。
プディヤやパドゥハという無国籍エキゾチックなオリジナル名前も気に入っています。 ……が、なんとなくアジア風な絵面を想像してもらうためには、メイリュウとか、なんとなく中華風の名前にしておけばよかったかな……とも、思います。
■推理期間中、褒められた点は?
綺麗、幻想的、キラキラ、プディヤが良い子、可愛い、いじらしい、世界観が好み、緻密な設定がありそう、心理描写が繊細、語彙力、文章や描写が丁寧、端正……など。 もったいないお言葉をありがとうございます。 過去と未来合わせて十年分くらい褒めてもらいました。 覆面企画様様です。
あと、タイトルを褒めていただきました。 後書きで『印象深いタイトル』にあげてくださった方も多数。
あと、褒められたというか……。 推理中に、塩中さんのツイートから突然ノイ兄さまがブレイク?したのは(……何が起こった?)と、ぽかんとしましたが、嬉しく、楽しく、大笑いさせていただきました。 アヤキさんのブログでの二次創作?なんか(アヤキさんのCブロック推理記事参照)、塩中さんは大笑いしてたけど、私は普通に萌えました!! これ、ほんとに書いてもらって読みたいです! 設定資料が必要なら提供しますから!
ノイに名前を与えたのは、単に、その部屋にいる人は全員『兄さま』だから、そのうちの一人に話しかけるなら名前を呼ばないといけないだろうというだけで、本当は、具体的なセリフにせずに『たまたま起きていた若者の一人に尋ねたらユウアムの行き先を教えてくれた』と書くだけでも良くて、そうしたら名前も、動作や表情の描写も必要なかったのですが、なんとなく私の頭の中にノイがいて、寝静まった雑魚寝部屋で何か道具の手入れをしていて、プディヤが戸口に立つと顔を上げて白い歯を見せたので、ただでさえ厳しい字数制限で余分に苦労してでもその描写をしたかったし、セリフも書きたかったのです。 その、『なんとなく頭の中にこの人が居た』というのが、伝わったんですね。 暗い中、目と歯だけが白く見えるイメージだったので、そうです、きっとノイは色黒です。<アヤキさんへ。
真面目に言うと、特に目立つ必要のないモブが必要以上に印象に残ってしまったというのは、作品全体のまとまりから見れば失敗なのかもしれません。 でも、私がそれを書いて楽しくて、読む人もそれをネタに遊んで楽しんでくれたなら、オンノベとしてwin-winですね! ありがとうございます!
■推理されてみて、いかがでしたか?
完全素顔参加で、最初から当ててもらうつもりでしたが、それでも、ブロック分けによっては多少は迷ってもらえるかも……と、ちょっとは期待してました。 が、ブロックの顔ぶれが発表されて、これはダメだ……と覚悟しました。 それでも、推理開始直後は、ちょっと迷ってくれた方もいて、もしかしたら……と期待したのですが、すぐに、覚悟した通りの鉄板状態に(^_^;)
でも、嬉しいです。 自分の萌えを渾身で詰め込んだ作品を、みんなに冬木らしいと言ってもらえて。
ただ、『推理をかわすための作戦』のところでも書いたように、今回、すっぴんだけど、タイトルだけは頑張って普段とちょっと違う感じにしたつもりが、みんなにタイトルが冬木っぽいと言われて、(あれ〜???)という感じでした。
あと、塩中さんに、ギネス級(笑)の長文がないと言われましたが、いつもあるわけじゃないんです、特に『サヌザ』とか『酔夢』は、フェイクのためにわざと長くしたんです! ただでさえ一文が長いのが特徴なのに、フェイクでさらに長くしたら、よけいバレやすくなるだけなんですけど、たとえフェイクのためでも短くすることはどうしてもできなかったので(『ヘブンリー・ブルー』の時にやろうとして冒頭だけで挫折した)、開き直って、もっと長くする方向のフェイクをしたのが『酔夢』。 つまり、短い文はどうしても書けないけど、長くしようとすればいくらでも長くできるのが私……というわけで、やっぱり、一文が長いのが私の最大の特徴ですね(^^ゞ 今回は、特に長くしようとも短くしようとも思わずに、素で書きました。
次回(その3)に続く……。
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