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2003年05月25日(日) 科学の方法

新しいことを発見するためには、既存の知識に囚われない自由な発想が大事だとよく言うが、しかしそれは既存の知識を知らないほうがいいという意味ではない。すでにある知識を応用することで、新しい発見ができる。全く何もないところから発想するのはほぼ不可能だ。中にはそれができる人もいるのかもしれないが、俺には少なくとも無理だろうと思う。だからこそ、学ぶべきことがたくさんある。発想の「飛び」を得るにはまず土台がいるのだ。(もちろん、その土台を盲信してはいけないが)

『電気及び磁気の場が、cの速度で伝播していくことを、数式が教えてくれたことは、まことに驚くべきことである。ところがこの数式は内容的には、エールステッドの法則と、ファラデーの法則、すなわち(1)式及び(2)式とほぼ同じものである。ただ仮定が少し加わっただけで、本質的には、そうちがわない。そうすると、電磁波の存在は、エールステッドの法則と、ファラデーの法則との間に隠されていたことになる。しかしどんな大天才でも、この二つの法則の中から、電場、磁場は、空間を波として伝わっていくものだということを、かぎ出すことは不可能であろう。それは、マックスウェルほどの頭脳をもってして、数式によって展開してみて、はじめてわかったことである。数学というものは、人間の頭の中で作られたものではあるが、それは個人の頭脳でつくられたものではない。たくさんの数学者の頭脳で作られたものであって、いわば人類の頭脳がつくったものである。そういう一種の超人であるところの数学の力を借りて、はじめてエールステッドとファラデーの二つの法則から、電波の存在が予言できたのである』(中谷宇吉郎『科学の方法』)


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