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| 2003年03月24日(月) |
SWITCH BACK |
しばらくの間、更新ストップと前回書いたが、更新する機会があったので更新する。新鮮なうちに、記録しておきたい。 まだ懐かしい人たちには会っていないが、向かうところからはすでに帰ってきた。
およそ都会という言葉とは無縁の場所に向かった。 一応の目的地はあったが、むしろそこに向かう途中の過程そのものが目的であったともいえる小旅行。 列車(電車ではない)に乗っている途中で、「スイッチ・バック」を体験した。線路を折り返すために列車がゆっくりと後退する。
途中までは友人とともに、そしてそこからは一人。 一人になった俺は時代に取り残された山奥の秘境駅に向かう。 山を下ると、廃屋が見えてくる。 衣服の残骸。不釣合いなドラム。 滝が流れ落ちる音。 誰もいない、何もない、小さな駅が見えてくる。 いや、何もないのではなかった。 一冊のノートがある。 ここを訪れた人たち(俺のような)の記録。 俺も記入する。 しかしやはりそれ以外には、何もない。 何もないが、ないということがここにはあるのだ。 それで十分だ、と思った。 向かえの列車が俺を拾いに来るのを静かに待つ。
到着した列車の車掌は、不思議そうな顔をする。 「こんな駅に何の用なんだ?」とでも言いたそうだ。 俺は列車にゆられながら、その駅から遠ざかる。
*(以下、引用)
この話は、これで終わりなのだ。 でも……。 どうして、こんな話を長々としてきたのか? それくらい、最後に語っておこう。 それは……、そう……。 私の人生の中で、この事件のあった夏の一日が、まさに特異点であったからにほかならない。 私は、それまで、一気に上り詰めようとしていた。 (いったい何に?) そんな私にとって、この数十時間は、一息入れるスイッチ・バックだった。 そう……。 気が利いている。 スイッチ・バック……。 私は、ここで、一度後退した。 バックしたのだ。 (中略) そして……、 それからというもの……、 再び……、 私は、さらに急な坂道を上り続けている。 遮二無二……、 上っているのだ。 私の通った道は、いつか朽ち果てる。 あの廃線跡のように、自然に還るだろう。 私が戻ることは、もうない。 戻れない。 たぶん、死ぬまで、二度と……、 こんな機会はない。
だから、書いた。 理由は、他にない。 (森博嗣『今はもうない SWITCH BACK』
*
列車に乗っている途中で「スイッチ・バック」を体験したときに、この引用元の小説のことが思い浮かんだ。でも、俺は、「人生はスイッチ・バックできない」といった類のことがこの小説に書いてあったのだと、そう記憶違いしていた。思い込んでいた。 (ある何かに向かって)俺は一気に上り詰めようとしている。そういう今の自分にあった記憶を捏造していた、ということかもしれない(余談だが、こういう捏造は、個人だけではなく国単位でも行われることがある)。 それに一息入れることができた。それは俺にとって一つの収穫だ。 この小旅行は、俺一人では、おそらく存在していない、 俺を連れ出してくれた君に、感謝する、 ありがとう。
(さて、それでは、懐かしい人たちに会いに行くことにしよう)
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