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2002年02月08日(金)

何かを失うと同時に何かを得ることができたなら、それはきっと無駄ではなかったと思う。
失われたもの、通り過ぎたものに対して、ありがとう、と感謝して、もう振り返ることはない。
いくら叫ぼうと、追いすがろうと、留めておくことができた試しがない。留める意味もない。
「失われた」といったん認識してしまった対象に何をしようと見苦しいし、無駄だ。
自分の選択に後悔して、いくら嘆こうと、自己の慰めでしかない。
誰も助けてはくれないし、誰からも置いていかれる。
いつまでも悲しい場所にとどまっていたければそうすればいいし、自分がそうしたからといって誰も困る人間はいない。誰も困ってくれない。過去に留まりつづける人間を誰も必要としてはくれない。必要とされたければ、現在を懸命に生きるしかない。いつか一人で大空を自由に飛びまわれることを目指して。
俺は今はまだ上手く飛ぶことのできない篭の中の小鳥でしかない。そのことが悔しいから、この指を一本ずつ離していこうと思う。

『お前には価値なんかないよ、とヤザキは微笑みながら言った。もちろんおれにだってない、価値がある人間なんか誰もいない、誰にだって代わりはいるし、人は他人に何もしてやれない、そういうことから出発してどこかへ行けるかという実はどこにも行けない、いつか他人にとって価値のある人間になろうとしてもそういうことはさもしいし、無駄だ、誰からか本当に必要とされている人間なんかどこにもいない。そして最後に言った。
 だからおれ達は自由なんだ。』(村上龍『タナトス』)


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