月のシズク
mamico



 インスタントカメラの中身

ベットサイドに放置されたままのインスタントカメラを現像に出した。
散歩の途中に立ちよった公園の側のカフェで、仕上がった写真をチェックする。

最近のものから重ねられた写真は、妹ちゃんとのツーショットから始まった。
私が無邪気に裏チョキ(手の甲を向けてピースサインをするポーズ)をしている横で、
楽しそうに笑う妹ちゃん。次々めくってゆくと、研究室の同僚や、7月に参列した
友人の結婚式のものまである。みんな半袖姿で、日焼けして、インスタントカメラ
特有のざらっとした質感が、たった半年前を、ひどく懐かしく思わせた。

次に現れたのが、どこか外国の風景だった。
ハイウェイから、市街地へ入り、ポスターやら、建築物やらが、車の目線で
切り取られている。私が見知らぬ風景は、しかし、私がよく知っているN.Yの
風景だった。横に並んだイエローキャブの鮮やかな黄色の車体。どう考えても
これらは、車の中から撮ったものだ。しかし、この半年間、私は海外に出ていない。

ゆっくりと記憶をたぐり寄せる。一体このカメラは誰の手にあったのかを。
そうして、ふと思い出した。ジャマイカで勤務していた兄が、帰国の途に着く際、
トランジットでN.Yに立ち寄っている。とすると、この日本製インスタントカメラ
は、兄の持ち物だったわけだ。なーんだ、と思い、そっか、と納得する。

兄が撮ったN.Yは、いったい何を標的としてシャッターを切ったのか、皆目分からな
かった。おそらく、私なら素通りしてしまう風景ばかりを追っている(だって普通、
光量の少ないトンネルで、フラッシュまで使って写すかね?) 私にとっては
意味不明な写真も、きっと兄にとっては、意味があるのだろう。あの時、あの場所
に立った、という過去の一点と結びつく、物証的な記録。



見覚えのない写真を手に、ぐるぐると考えをめぐらせていたら、なんだか束の間の
タイムトリップに出た気分だった。他人が旅した土地を、一瞬、自分も旅して
しまったかのような感覚。そのスピード感と、春のような陽気が、私をけしかける。

カフェを後に、公園で梅の花を愛で、通りすがりの教会で出くわした結婚式
の撮影を眺め、まだ飽き足らずに、へとへとになるまでプールで泳いだ午後。
そうそう、プールから眺めた夕暮れ空は、紅梅のように濃く、とても美しかった。

2004年02月21日(土)
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