月のシズク
mamico



 砂漠で生きるドイツ女のように

アメリカのロードマップを広げていたからだろうか。
『バクダットカフェ』のざらっとした、くすんだ優しい映像が観たくなった。

東から西へ向かうR66、ラスベガスを越えてカリフォルニアへと続く砂漠の道。
その途中のニューベリースプリングという小さな町で、その映画は撮影された。
カメラをこのカフェ一点に据え、特に大きな事件も起こらない、淡々とした映画。
それでも、なぜか懐かしく感じる肌触りが、私はたまらなく好きだ。

イライラをぶちまける女主人のところに転がり込んだ、丸々と太ったドイツ女。
ふたりはすごく対照的ではあるけれど、女、という揺るぎのない共通点がある。
私はそれに、ほっとさせられるのかもしれない。無口だけど、柔らかで、
人をよせつける(美貌とは違う)魅力を持ったドイツ女は、とても素敵だ。

印象的な場面がある。
人口も娯楽も少ない土地で、ギスギスしたバッハしか弾けなかった少年の
ピアノが、いつしか、とてもゆったりとした調べになったところ。
あの映画の優しさは、そんな些細な情景にしっくり馴染んでいる。

と、こう書いている間にも我慢しきれなくなり、ホリー・コールのCDをかけた。
"Calling You"は、砂漠の砂が巻き上がる町に住む、それぞれの淋しさを
抱え持った人々が、小さく声を上げて、誰かを呼んでいるような歌だ。
その根底には、常に、人間が生きてゆく強さが流れている。


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2003年11月13日(木)
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