月のシズク
mamico



 夜の街で爪を切る男

ついさっき、いつもはこんな時間に通らないパルコの裏通りを
ショートカッツして帰ってきた。

足早に通りを進むと、暗闇から「パッチン、パッチン」と聞き慣れぬ音が響く。
周囲が高い建物で覆われた場所だけに、音が響くんだな、これが。

闇の中、目を凝らして見つめると、背広の上着をだらしなく脱ぎ捨てた
青シャツの男が、立ったまま真剣に爪を切っている。
しっかりと爪切りを握って、パッチン、パッチンと。

子供の頃、夜に爪を切ると親が早死にするから、日が暮れてから
爪を切っちゃダメだよ、と祖母に教えられた。
その迷信がなにやら子供心に恐ろしくて、今でも夜に爪を切るのは勇気がいる。
なのに、この男は大胆にも夜の闇の中で爪を切っているではないか。
これが「呪いの爪切り」だとしたら、なにやら背筋が凍る思いでした。




2001年04月02日(月)
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