A Will
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2007年07月23日(月) フィクション。

自分が追い求めてるものが、突如として完璧なまま目の前にポポンと現れたらきっと。
人間て死にたくなるんだろう、なんて思ったら目が覚めた。

今朝、見た夢が思い出せない。
昨夜飲んだ日本酒が微妙に残った頭のまま、隣で眠ってる男の子の顔を覗きこんだ。
彼はきっと自然界じゃ真っ先に淘汰されてしまうだろう泰平な寝顔で眠っている。お互いに洋服は着たままのことに今さら気づいた。
あぁそうだ。セックスはしなかったんだ。
それは別に残念がることでもないけれど、きっとこの男の子ともう一度一緒にお酒を飲んだりすることはないように思うから、ある種の寂しさというか、確かにそういったものを感じないことはない。
女の子を酔わそうとして日本酒の飲み比べをして、挙句に自分のほうが酔っ払ってしまうような男の子は、可愛くはあっても好きにはなれない。

換気扇というものは、どうして静かな朝にあんなに煩く回転してくれるんだろう。
煙草の煙を吸いこむのを嫌がってるとしか思えない。あんなに平和に寝ている男の子をうっかり起こしてしまうんじゃないかと心配になる。
勝手に冷蔵庫を開けると、1人暮らしの男の子らしくコーヒーとマヨネーズとコロッケが無造作に置いてあった。
冷蔵庫の中はポッカリと白く明るくて、当たり前にひんやりしていた。
コーヒーを取り出して飲む。黒々とした液体が喉元を通って胃まで落下する。そんな想像をしながら飲む。お酒もそうやって想像しながら飲む。そうすると無駄なく体に吸収されて、無駄なく酔えるような気がした。

背後で男の子の起きる音がした。
振り向いて「おはよう」と飲みかけのコーヒーを渡すと、男の子は一瞬ものすごく驚いて、次の一瞬で昨夜の記憶を思い出そうと必死に目をぐるぐるさせた。
それがものすごく可愛くて可笑しくて耐え切れずに笑うと、男の子はやっと「おはよ」と言った。
昨日はすごく酔った、だとか。すごくお酒強いんだね、だとか。男の子は自分が弱いんじゃなくてたまたまだ、お前が強過ぎたんだ、とでも言いたそうに苦々しく褒めてくれた。
「今度、また一緒に飲もうよ」
「今度?」
聞き返すと男の子は、にっこり笑った。髭の生えなさそうな頬っぺたが日に照らされて白く光る。綺麗な肌だなーと場違いな事が考えつく。
「何のために?」
同じようににっこり笑うと、男の子は目をまんまるにして、口を開きかけてすぐに閉じた。


男の子の家から自宅までの二駅を歩いて帰る。
結局、男の子はその後何も言わずに、気が向いたら連絡頂戴、と連絡先だけを教えてくれた。
意外と紳士なのかもしれない、と思ったらほんの少し好きになれるような気がして、今度ここに来るときは牛乳とカルピス置いておいて、と頼んできた。

人間、完璧なものがあったら死にたくなる。今朝思ったことを思い出して、だから丁度良いのかもしれないと思う。
あの男の子は全然完璧なんかじゃなくて、可愛いだけで、お酒も弱い。
けれど、意外と紳士で素直だ。たぶん。
男の子からもらった連絡先を無くさないように、手帳に挟んだ。


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