A Will
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緑。青。紫。黄。赤。それでまた緑。
レインボーとか書いてあるくせに、七色ないじゃん。 ベッドについてたスイッチで遊んでたら浴室のドアが開く音がした。
「何してんの?」
先生は少し笑っているらしい。
「ねぇ、レインボーって何色ありましたっけ?」
私は先生の方を見ないで言って、ベッドサイドの色の変わっていくランプをひたすら見つめる。
「レインボー?虹?七色じゃないの?」
「だってこれ、七色ないんですよ」
ほら、と振り返って先生に見せてあげる。 先生は、少し困った顔をして「本当だ」と呟いた。
「でしょ?変ですよね」
そう言って、私はすぐにこの話題を打ち切る。
「私もお風呂に入ってきますね」
わざと熱くしたシャワーを浴びながら、ひりひり痛む肌を可愛そうだと思う。
『何もなしで一緒に寝ようか』 下らない嘘を先生は吐いて、その嘘の面白さに私も頷いた。 どう見ても紳士には見えない先生を私だって信じようなんて思わない。
浴室のドアをノックされた音に、ビクリと不愉快に自分の肩が揺れた。
「…なぁに?」
できるだけ上機嫌に聞こえるように注意する。
「なんか買ってこようと思って。なんかいる?」
「あぁ・・・えっとお水買ってきてもらえます?」
「解った。じゃ、行ってくるね」
はぁい、と間延びした返事をして心の中で飲酒運転を平気でしちゃう先生を責めた。 別に良いけどさ。あんた婚約したばっかじゃん。
「美味しい水って自ら名づけちゃうのって強気ですよねぇ」
先生の買ってきた水をごくごく飲む。 先生は微笑んで、そうだねって小さく言った。
「美味しいかどうか決めるのは、買った人なのにね」
「でも不味い水ってあったら誰も買わないじゃん」
「うん、だから味については書かないのがセオリーじゃないの?って思っただけです。美味しいですよ。お水」
ありがとうございます、と頭を下げたら、 私のまだ乾いてない髪の毛を先生は撫でて、そのまま後ろに倒された。
何もなし、ねぇ・・・
平気で私の素肌を触る先生を見つめる。 それを何の合図と思ったのか、先生は顔を近づけてくる。
「うそつき」 口を塞がれた状態で言っても、くぐもった音がでるだけで、 なんていうかこれじゃ気持ち良くて声が出ちゃったみたい。 あーあ。
不躾。無遠慮。 どっちだろう、と思うような図々しさ。
秘密の共有、とか色々と面倒くさいことが次々思い浮かぶ。 自分の嫌な声が聞こえて、その不快さに途端に負けたくなる。
「チェックアウト、10時までだって」
フロントに確認した先生は言って、私は時計を確認する。
「あと、10分しかないですよ」
お互いに笑い合って、だからって特に慌てないで、ゆっくり着替えた。 先生の車体の低い車に乗って、朝ごはんの話とかを他愛なく話す。
きっと。 昨日のことには触れちゃいけないのだろう、と思い知る。
「なに食べたい?」
「うーーん。ハンバーガー」
「お前、たまに子供みたいなチョイスするよね」
「うん、私、まだまだお子様デス」
室温で温くなった、買ってもらった水をごくりと飲み込む。
「先生、このお水、すごく美味しいですよ」
新発見したごとく私が報告すると、先生は吹き出した。
「だからさ、それ『美味しい水』なんじゃん?」
先生は笑う。 実に大人らしく笑う。
ふぅん。そういうことね。
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