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【沙亜子はいまだ、水の中】





◆ 感情は、過去をさすらい、今を彷徨い、乾いた風となる



大会以来、アスファルトを走ることに快感を覚え。
街中を走るようになった。



私が普段走っているのは公園の土で。
道路ほど弾むことはない。
日曜日は、早朝6時から夜まで、3回に分けて30km走った。
弾むアスファルト。
こんなに気持ちいいとは知らなかった。







坂のあるところを選んで。
一つ向こうの駅まで走ってみた。
どこまでも走れるような気がして。
すつかり”スマイル”気分。





単純な単純な毎日。
毎日毎日、同じことの繰り返し。
飽きないのは、そこに自分の意思があるから。
きっと。






◆◆◆◆◆
夜を走った。
その晩、後数時間で、昔付き合ってた人の絶命の時間だった。
家からそんな遠くない道。


あまりに昔のこと。
あの時の記憶は、確かにはっきりと感触が残っている。
なのに、感情はない。
元々感情が薄いたちなのかも知れない。
いや、その時々の感情を抱えて生きていないからだ。




足元しか見ない、視野の狭い生き方。
明日、何をしようか。
小さな目標を積み上げることだけに精一杯。




私の新陳代謝は。
自分でも自覚ありありの細胞分裂の繰り返し。




一ヶ月たてば、りっぱに違う自分に生まれ変わり。
過去を懐かしむことさえない。
断片の集まりの記憶の束。






乾ききった感情。
それは湿っているのか、もだえ苦しんでいるのか。
そんな感触も、過去の記憶には備わっていない。








「何か、言ってませんでしたか?」
救急隊員に、警察に、加害者に、最後に会った知り合いに。
私は聞いて回ったのだ。
あの時。
知らなければ。
何だか、それだけ。
それだけ気になって。
私は聞いて回ってた。


それだけ、何だか覚えてる。
秋の晴天が不自然なほど続き。
いつまでも洗い流されることがないおびただしい血の影。
ついに、一滴の涙も流すこともなく。
あの出来事は、彼方へと流されたのだ。







◆◆◆◆◆
私のことを変わっている人と連呼する人。
はっきり言って、私の方こそがその台詞を連呼したい。
変わってるなんてもんじゃない。
感覚が私と外れ過ぎ。


今日もある人が「こっちが手を振ると、振り返してくれる人がいる」と言ったら。


「ああ、精神病の人にそういう人が多いのよ」と言う。


もう、一同絶句。
いつも一言が多く。
何と反応していいか、リアクションに困る。


他人を自分の感覚で決め付けることも多々。





でもまあ、いっか。
単なる仕事仲間だから。





少々困ったところがある人の方が見てて退屈はしない。
良い人過ぎる人の側にいる窒息感に比べれば。
地獄の遊園地なみに楽しめる。







◆◆◆◆◆
私は人を見下す傾向がある。





昔からそうで。
気をつけなきゃとは思うものの。
さすがに性格を直すことなんて無理だと思い知る昨今。



せめて、それを悟られないようにする術を身に着けようと思っている。
それでも。
そんなメッキはいつか周囲にもばれ。
きっと赤面ものの醜態を晒す日が来る。





姑息な一面がばれるのはみっともない。
相手に嫌な思いをさせて悪い、そんなことは微塵も感じず。
ただ、自分の体裁の傷を思うのだ。







だから。
覚悟だけはいつもある。
一人になっても仕方ない、そんな覚悟だけは抱えてる。








と言いつつ。
そう考える振りをしているだけ。




















2003年10月22日(水)






   


   

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