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【沙亜子はいまだ、水の中】





◆ 金色に染まる鹿のように、ただしなやかにそのイメージは染みる



「ピンポン」。
スマイル。
ARATA。
とても印象的なシーンが、彼が走るところ。
幼馴染と対決するために練習して。
走って、走って、ただ走るシーン。





スマイルは走ってた。
金色に染まる夕陽をまとい。
灰色の街並みを背に。
まるで全ての風景が目に入らないように。
一途に。
無心に。
前だけを見据えて。


その美しい姿に。
軽い衝撃くらう。







ひたすら進むランナーの心はわからないけど。
わかりたいと思った。
知りたいと思った。
感じてみたかった。
あんな風に走ってみたいと思った。







次の日。
私は走ってた。


たった200mも走れなかった。
体がバラバラになるかと思った。


とてもじゃないけど、スマイルに近づけないと思った。


出来ない、
そう思ったから。




また走りたいと思った。








あの瞬間が確かに私のランニングの始まりだった。











◆◆◆◆
憧れはいつも異性が持っていた。


それでも女に生まれてきたから。
自分に与えられたものを否定したり、卑下したりするのは。
見栄っ張りの私には耐えられないから。
女の体に不服など感じたくもないのだけど。





ああまでも美しく、しなやかな男の体を見せつけられると。
問答無用の感動と。
自分に与えられなかったその事実に。
少し、溜め息。
自分にも嘘をつくくらいの、溜め息。
ちょっとね、ちょっとだけ感じる。








ベンジーの体も、好き。


華奢で、色気漂う容貌。
魅了されないわけがない。







ダイエットしている時。
イメージトレーニングは、BJCなどのVD・DVDから。


なりたい女のイメージなど、ない。
浮かばない。








◆◆◆◆
例えば。


女らしい体というのは、適度な脂肪とわずかな筋肉。
それが一般的なイメージ。




いくら痩せたからといって、脂肪がなくなった体など、
一般的には受けが悪かったりする。
痩せた女性が称えられるのは、二次元の世界での話。
って、気がする。





でも。
今の私の心境から言うと。
もちろん、マラソンのためと言うこともあるけど。
やっぱりもっと痩せたいと思う。
BMI値18が目標。
現在は19くらい。
マラソンのためというなら、もっと下を目指してもいいくらいだと思ってる。




でも。
きっと、周囲はそこまで痩せたら奇異な印象を持つだろうなあと考えると。
少しその気持ちも揺らぐ。
年に数回しか会わない親が何と言うか。
よけいな心配をかけるんじゃないかとか。


そうして私の嫌いな台詞を聞かされる。
「そこまでして、何になるの?」







どうして周囲は痩せた女性に対して嫌悪感を抱くのか。
安定感、安心感の欠如が、病的な印象を与えるからなのだろうな。
周囲に安心を与えるために生きてるんじゃないけど。
それをまったく無視できるほど、鈍感でもなし。






正直、骨が浮いている体は女としての魅力はないのかもしれないけど。
それでも、潔くその形だけの女らしさ。
なければないでいいじゃん。
言い聞かしてやる、自分にこそ。










一番欲しいイメージを。
夕陽に染まるランナーの孤独と開放感。
その一瞬が私の手の中に入れば。
もう、言うことはない、きっと。
その恍惚感、掴む。
私の努力が掴みに行く。


潔くない私の微少の迷いを振りほどきながら。









2003年09月24日(水)






   


   

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